Wednesday, March 06, 2013
国連人権理事会、チャベス追悼
グランサコネ通信2013-11
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3月5日午前、人権理事会第22会期は引き続き、議題3において提出された報告書(特別報告者、作業部会)をめぐる議論を行った。
前日からの続きで、まず拷問問題と人権擁護者の人権が議論された。各国政府の発言を聞いていてわかるのは、おおまかに4つの種類に分けられることだ。第1は、自国における拷問や虐待の存在を前提に、事態を改善するためにとってきた措置の説明をする発言。第2は、拷問や虐待があると指摘を受けて、その存在を否定したり、解釈を変えて言い訳をする発言。拷問があることが知れ渡っている国の場合。第3に、自国のことには言及せず、他国の人権侵害を列挙する発言。第4に、発言しない諸国。最後が一番の問題で、日本政府が典型だが、拷問の事実を認めず、したがって拷問をなくす努力はしない。
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3月5日昼から、恣意的拘禁作業部会報告書と反テロ特別報告者報告書の審議に入った。恣意的拘禁作業部会報告書は去年までも何度か紹介してきたが、今回、思いがけないことに「恣意的拘禁とは何か」の定義を主題としている。人権委員会時代から「恣意的処刑・略式処刑」の議題があったので、それと同じように恣意的拘禁の議題と理解してきたが、各国から批判が出たようだ。
作業部会は、各国における恣意的拘禁の事例を取り上げて警告を発してきた。これに対して、どの国も、これは恣意的拘禁ではない、と抗弁する。その際に、恣意的拘禁とは何かの定義が定まっていないので、あれこれと言い訳がまかり通る。作業部会に対する批判も出て来る。そこで、今回、改めて恣意的拘禁の定義の試みが行われている。これも後日、どこかで紹介しようと思う。
報告書はまず、慣習国際法において恣意的と言える自由の剥奪について、自由剥奪を正当化する法的根拠が不明の場合、自由剥奪において世界人権宣言の主要な人権が不当に制約されている場合、公正な裁判に基づいていない場合、移住者や難民が長期にわたって行政拘禁されている場合などを列挙する。続いて、世界人権宣言、国際自由権規約、アフリカ人権憲章、米州人権条約、欧州人権条約、アラブ人権憲章の関連条文を指摘する。国際自由権規約の批准はすでに167か国に及び、国際基準として使えるという。
おもしろいのは、各国の憲法も参考になるとして、オーストリア憲法75条5項、アゼルバイジャン憲法28条、フランス憲法66条、スペイン憲法17条4項、デンマーク憲法法律71条2項、チリ憲法19条7項、モロッコ憲法23条、日本国憲法31、33、34条、パラグアイ憲法11、12、133条、グルジア憲法18、40、42条、ギリシア憲法6条、スイス憲法31条、キルギスタン憲法16条、セルビア憲法27~31条、ポルトガル憲法27条、モーリシャス憲法5条を列挙していることだ。一部の国の刑事訴訟法や人権法や人身保護法も列挙されている。条文番号だけ例示されているが、調べてみると面白いかもしれない。もっとも、全部調べるのは容易ではない。国連の特別報告者だからできることだ。
日本の憲法学では、アメリカ、ドイツ、フランスの例を挙げて、これが世界の動向だ、と根拠もなく決めつけるのが通例となっている。これほど視野の狭い憲法学は国際社会に通用しない。
もっとも、審議における発言を聞いても、定義問題について理論的に応答した国はなかったように思う。定義をはっきりされると、後で反論できなくなって困るからか。報告書が出たばかりで、理論的な検討はまだできていないためかもしれない。NGOの発言は、いつもと同様に、イラク、アフガニスタン、イスラエル/パレスチナ、シリア等々の実態報告が中心だった。
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3月5日夕方から、宗教の自由、強制失踪の特別報告者の報告書の審議に入った。3月6日午前も続き。
6日午前10時過ぎ、ベネズエラのチャベス追悼セレモニーだった。ペルー、ボリビア、べネズエラ政府代表が順に追悼の辞を述べた。「チャベスはラテンアメリカの<第2の独立>のリーダー」という表現が続いた。ボリバル革命を継承する闘士という位置づけだ。全員で黙祷。
追悼が終わった後で、元の審議に戻ったが、バングラデシュ、パキスタン、シエラレオネ、中国などが、それぞれの発言の冒頭に、アドリブで、チャベスにささげる一言を述べた。中国の次の順番の日本政府代表は、追悼の言葉はなく、事前に用意した自分の発言をひたすら読み上げていた。こういうのって凄く目立つんだけどなあ。
宗教の自由に関する発言では、シエラレオネ発言が気になった。「クリスムス」と言っていた。「Christian and Muslim」の意味だという。シエラレオネは、ムスリム60%、クリスチャン30%の国だが、きれいに分かれるわけではなく、いわば二重宗教状態の家族がいて、ムスリムとクリスチャンが同居しているし、ムスリムの休日やクリスチャンの休日をお互いに共有しているので「クリスムス」と呼ぶのだという。「文明の対立」や「宗教戦争」に対するアンチテーゼとして意味づけたいという趣旨の発言だ。実態がどうなのかはよくわからないが、面白かった。神棚と仏壇とクリスマス・イヴが同居する日本とは違って、ちゃんと意味があるのだろう。
6日昼は、障害者の権利をめぐるパネル・ディスカッション。ピレイ人権高等弁務官のあいさつに続いて、ケニアの障害者団体ネットワークのオウコ・アルチェリ、障害者権利委員会議長のロナルド・マッカラム、ILOの専門家バーバラ・マレイ、ロシア障害者協会会長のニキチシュ・ルクレデフ、企業障害者フォーラムのスーザン・スコット・パーカーのパネル。6日午後の部から、人権と環境の報告書、外国債務の報告書の審議に入った。
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4日(月)から日米の有力弁護士が参加している。1人は伊藤和子さん。アフガン国際戦犯民衆法廷やイラク国際戦犯民衆法廷ではお世話になった。これまでも人権理事会に参加したことがあるが、今回はヒューマン・ライツ・ナウが国連NGO資格を取ったので、正式デビューだ。イラクや福島のことを訴えるそうだ。精力的に頑張っている。
もう1人はカレン・パーカーさん。長年の常連NGOで、30年近く前に日本の代用監獄問題を国際社会に持ち出し、20年前には日本軍性奴隷制(「慰安婦」)問題を取り上げてくれた。イラク世界民衆法廷ブリュッセル法廷の時にお世話になり、2005年の人権小委員会に劣化ウラン弾問題を訴える時にも協力してくれた。2週間、人権理事会に専念だそうだ。