Friday, April 11, 2014
強制とは何か(4)河内謙策さんへの質問
今回は強制労働条約です。
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/st_c029.htm
1930年のILO強制労働条約は「一切ノ形式ニ於ケル強制労働ノ使用ヲ廃止スルコト」(第1条1項)をめざしつつ、漸次的廃止の措置を定めた条約です。完全廃止でなかったのは時代の制約です。
日本政府は1932年にこの条約を批准しました。「慰安婦」政策の推進はその後のことです。従って、1990年代に「慰安婦」論議が行われた時に最初に問われたのが強制労働条約との関係です。このブログで紹介した国外移送目的誘拐罪、醜業条約、奴隷の禁止の議論よりも前に、強制労働条約をめぐって議論がなされました。
「慰安婦」問題について、日本政府は、条約を批准していたので条約の適用を認めつつ、しかし「適用除外・適用例外にあたる」という主張をしました。強制労働条約第2条2項(d)に当たるという主張です。
強制労働条約第2条2項(d)「緊急ノ場合即チ戦争ノ場合又ハ火災、洪水、飢饉、地震、猛烈ナル流行病若ハ家畜流行病、獣類、虫類若ハ植物ノ害物ノ侵入ノ如キ災厄ノ若ハ其ノ虞アル場合及一般ニ住民ノ全部又ハ一部ノ生存又ハ幸福ヲ危殆ナラシムル一切ノ事情ニ於テ強要セラルル労務」
「戦争ノ場合」だから「慰安婦」について条約の適用がない。だから、違法とは言えず、日本政府に責任はない、という意味です。
しかし、1996年4月の国連人権委員会に、ILOの担当官が参加して発言しました。その趣旨は「第2条2項(d)は緊急ノ場合を意味している。緊急時に慰安所に行くというのはどういうことか。慰安所がないと住民ノ全部又ハ一部ノ生存又ハ幸福ヲ危殆ナラシムルとはどういうことか。慰安所は第2条2項(d)の要件に当たらない」というものでした。それ以後、日本政府は適用除外の主張をしていません。
ILO条約適用専門家委員会は、1996年以来、何度も何度も日本政府に勧告を出しています。「強制労働条約に違反した」からです。
強制労働条約は、「推定年齢十八歳以上四十五歳以下ノ強壮ナル成年男子ノミ強制労働ニ徴集セラルルコトヲ得」として、緊急の場合に男子の強制労働を認めていますが、女子の強制労働を認めていません(第11条)。
日本政府は、1996年4月までは強制労働条約違反ではないと主張していましたが、上記の件以後、反論をしていません。
河内さんへの質問です。
(1)「慰安婦」に強制があったか否かを議論する際の基準として、1930年の強制労働条約があることを認めないのでしょうか。
(2)日本政府と違って、適用除外を主張されるのでしょうか。
(3)あるいは、「女子の強制労働を禁止する」と明記していないと主張されるのでしょうか。