Sunday, April 13, 2014

日本軍「慰安婦」強制連行を論じるための基礎知識

これまで「強制とは何か(1)~(5)」を書いてきました。日本軍「慰安婦」問題の解決を求めて取り組んできた人にとっては常識的なことばかりです。1990年代にすでに語られ、議論が済んでいたことです。                                                           

ところが、村山談話や河野談話見直しが叫ばれる中、こうした常識を否定し、全くでたらめな議論が横行しています。1996年頃にニセ「自由主義史観」が登場して、「慰安婦」強制連行を否定する議論が大々的に喧伝されましたが、その時と同じで、「強制とは何か」の定義をせずに、身勝手な議論を振り回しています。安倍晋三の議論が典型例です。「官憲が家屋に押し入って無理やり連行したわけではない」というたぐいの主張をして、「慰安婦」強制連行を全否定する嘘です。安倍晋三の主張では、朝鮮による日本人拉致事件も強制はなかったことになります。                                                           

 強制連行の有無を論じるためには、強制、強制連行の定義が必要です。国内法にも国際法にも関連する概念の定義がきちんとあります。                                                                                                                        
ここで議論しているのは、強制があったかなかったかではありません。強制があったかなかったかを議論する際の「強制の定義」です。判断の基準です。また、日本政府の責任もここでの議論の対象ではありません。強制があったとしても、何らかの正当化理由があるとか、政府の責任を解除する理由があれば、責任はなかったという議論も可能になります。その問題にはここでは立ち入りません。あくまでも強制の定義をテーマとしています。                                                                                                            
 1 国内法                                                                                                          
――誘拐罪の略取、誘拐、売買、移送概念に当たれば強制です。略取、誘拐、売買、移送以外の強制もありうるでしょうが、それを論じる必要はありません。略取、誘拐、売買、移送が行われたか否かを議論すれば足ります。                                                                                                                        http://maeda-akira.blogspot.jp/2014/04/blog-post_8.html                                                                                                 
 2 国際法                                                                                                             
 (1) 醜業条約                                                                                         
 (2) 奴隷の禁止                                                                                         
(3) 強制労働条約                                                                                                                        (4) 人道に対する罪                                                                                                   
――以上の4つの国際基準に照らして、強制、強制連行があったか否かを論じることができます。現にテオ・ファン=ボーベン報告書、国際法律家委員会報告書、クマラスワミ報告書、マクドゥーガル報告書、女性国際戦犯国際法廷判決は、これらの基準を適用しています。ILO条約適用委員会は(3)の基準を適用しています。                                                                                                 
 http://maeda-akira.blogspot.jp/2014/04/blog-post_9.html                                                                                              
 http://maeda-akira.blogspot.jp/2014/04/blog-post_10.html                                                                                                              http://maeda-akira.blogspot.jp/2014/04/blog-post_11.html                                                                                                     
 http://maeda-akira.blogspot.jp/2014/04/blog-post_12.html                                                                                                                            
 3 河内謙策さんの特徴                                                                                                                         河内さんは、4月7日の投稿「IK改憲重要情報(48)」において、何の根拠も示さず、強制の定義も示さずに、いきなり「慰安婦」強制連行否定論を唱えました。                                                                                                                         河内さんは、4月11日の投稿「IK改憲重要情報(49)」において、次のように述べています。                                                                                                                        
 「河内は、2010年の尖閣事件についてのメールでのやりとり以来、メールにての『論争』は人を傷つけがちで生産的ではないと考えていること、このような多くの人の意見と『論争』することは河内の体力が許さない状態であるので、まことにすみませんが、私は、私の意見についてのコメントに『再反論』と言う形はとりません。」                                                                                                                         最後に、河内さんの主張の特徴をまとめておきます。                                                                                                                               
 (1) 法学部学生でさえ知っている誘拐罪に関する基礎知識すら持っていない。                                                                                                                                        
  (2) 誘拐罪について指摘されても、強制の定義に誘拐罪を採用することを認めない。                                                                                                  
  (3) 「慰安婦」に関する国際法について、1990年代の早い時期からすでに明確にされていた国際条約と慣習国際法を知らない。                                                                                                                                           
  (4) 醜業条約、奴隷の禁止、強制労働条約などを指摘されても、強制の定義にこれらを採用することを認めない。                                                                                                                           
  (5) つまり、20年にわたって国際社会で議論され確立してきた常識を、何も根拠を示さずに、全否定する。                                                                                                                             
  (6) そのことによって、「慰安婦」被害者=サバイバーたちを侮辱し、傷つける発言を一方的に垂れ流す。                                                                                                                                          
  (7) 2013年の国際社会権委員会が、日本政府に対して、「慰安婦」に対するヘイト・スピーチを止めさせるように勧告したが、それを無視して「慰安婦」に対する侮辱を繰り返す。                                                                                                                                           
  (8) 「慰安婦」を侮辱し、傷つける発言を垂れ流しながら、自分の都合で、「メールにての『論争』は人を傷つけがちで生産的ではないと考えている」と弁明し、責任逃れをする。                                                                                                                以上。