Wednesday, April 16, 2014
ヘイト・クライム禁止法(71)オーストリア
オーストリア政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/AUT/18-20. 17 April 2012)によると、ナチス再興活動は一九四七年のナチス禁止法のもとで犯罪とされている。同法違反事件は年間三〇件程度起きており、同じ数の有罪判決が出ている。ナチス禁止法はインターネット上での行為にも適用される。オーストリアは、二〇〇六年以来、インターネットにおける人種主義発言の予防のための欧州評議会サイバー条約追加議定書の締約国である。
一九七四年の刑法第二八三条は憎悪の煽動を犯罪とし、教会、宗教共同体、民族集団を保護している。敵対行為の煽動や激励だけでなく、人間の尊厳を侵害する方法での集団に対する憎悪の煽動や、侮辱又は軽蔑も犯罪である。憎悪煽動を理由とする訴追は年間一五件程度であり、その大半が反イスラム活動である。二〇一一年の改正により刑法第二八三条は、保護される人の集団が拡大された。
刑法第二八三条一項「教会、宗教社会、並びに人種、皮膚の色、言語、宗教又は信念、国籍、世系又国民的民族的集団、性別、障害、年齢又は性的志向によって定義されるその他の集団、並びにそれらの集団に明らかに属する構成員に対して、公共の安全を危険にするような方法又は広範な公衆に知覚できる方法で、他人に暴力その他の敵対行為を公然と煽動又は激励した者は、二年以下の刑事責任を負う。」
オーストリア刑法は犯罪直接実行者だけでなく、他人に犯罪実行を指示した者も刑事責任を問われる。人種主義者への財政支援などの援助は、憎悪煽動への寄与とみなされる。
一九五三年の結社法および集会法によると、刑法第二八三条や一九四七年のナチス禁止法に違反する活動を行う違法な結社や集会を解散させることができる。集会法第六条によると、刑法に違反する集会をあらかじめ禁止することができる。集会法第一三条によると、集会において違法行為が行われた場合には集会を解散させることができる。
刑法第三三条五項によると、人種的又は外国人嫌悪の動機は刑罰加重事由とされている。憎悪犯罪ではなく、一般に犯罪とされる事案で人種的動機は刑罰加重事由である。
警察統計によると、ナチス禁止法違反の申立は、三六〇件(二〇〇七年)、三六九件(二〇〇八年)、三九六件(二〇〇九年)。憎悪煽動は、七三件(〇七年)、五二件(〇八年)、三三件(〇九年)。
検察統計によると、刑法第二八三条(憎悪煽動)違反件数は、申立七三件、訴追一四件、有罪三件、無罪三件(二〇〇八年)、申立三三件、訴追一三件、有罪五件、無罪四件(二〇〇九年)、申立七九件、訴追七件、有罪九件、無罪一件(二〇一〇年)である。
人種差別撤廃委員会はオーストリア政府に次のように勧告した(CERD/C/AUT/CO/18-20. 23 October 2012)。オーストリアが条約第四条の留保を撤回する意思を表明したことを歓迎し、刑法第二八参条を改正して人種主義憎悪煽動に対処する努力に留意するが、委員会は、刑法第二八三条の射程を、条約第四条に定められた人種的憎悪と差別に効果的に対処し得るように見直すよう勧告する。オーストリアにおいてスキンヘッド、曲勢力その他母集団がネオナチ化していることに関心を有する。委員会は人種的憎悪を禁止する効果的措置を講じること、スポーツ団体と協力してスポーツにおける人種主義を根絶するよう勧告する。選挙に際して政治家がマイノリティに対する偏見を促進する煽動的な言葉を用いていることは遺憾である。政治家による差別発言を徹底的に捜査し、訴追するよう促す。っ人種差別を促進・煽動する候補者と組織に対する措置を講じるべきである。