Wednesday, April 09, 2014
強制とは何か(2)河内謙策さんへの質問
前回は国内法の誘拐罪について質問しました。今回は国際法です。
「慰安婦」問題で真っ先に取り上げられてきたのは、醜業条約と略称される1910年の醜業婦ノ取締ニ関スル国際条約です。他にも同協定や婦人等売買禁止条約がありますが、ここでは1910年醜業条約について確認すれば十分です。
第1条 何人ニ拘ラス他人ノ情欲ヲ満足セシムル為メ売淫セシムル意思ニテ未丁年ノ婦娘ヲ傭入レ誘引若クハ誘惑シタル者ハ仮令本人ノ承諾アルモ又犯罪構成ノ要素タル各種ノ行為カ他国ニ於テ遂行セラレタルトキト雖モ処罰セラルヘキモノトス
第2条 何人ニ拘ラス、他人ノ情欲ヲ満足セシムル為メ売淫セシムル意思ニテ詐偽、暴行、強迫、権勢其他強制的手段ヲ以テ成年ノ婦娘ヲ雇入レ誘引若クハ誘惑シタル者ハ仮令犯罪構成ノ要素タル各種ノ行為カ他国ニ於テ遂行セラレタルトキト雖モ処罰セラルヘキモノトス
(1) 第1条は、未成年女性(本条約では21歳以下)については、たとえ本人の承諾があっても誘引・誘惑を犯罪としている。
(2) 第2条は、成年女性については、「詐偽、暴行、強迫、権勢其他強制的手段」による誘引・誘惑を犯罪としている。「詐偽」は「強制的手段」の例として明示されている。
日本政府はこの条約批准時に植民地に適用しない旨の留保をしたことが知られています。以上のことから、「強制があったかなかったか」に絞ってみると、次のことが言えます。
(1) 日本軍に「慰安婦」とされた非常に多くの未成年女性(なかには15歳や16歳の女子が多数いた)については、本人に同意能力がなく、すべて第1条に当たる。それゆえ「強制」であった。ただし、条約は適用されないとすれば、「犯罪」として処罰しなかったことは条約違反とまでは言えない。
(2) 「慰安婦」とされた成年女性のうち、詐偽によって騙されて連れ出された事案は「強制」であった。ただし、条約は適用されないとすれば、「犯罪」として処罰しなかったことは条約違反とまでは言えない。
前回取り上げた国外移送目的誘拐罪の大審院判決以後、日本政府は「渡航規則」に改正を加えて、日本本土からの酌婦渡航を禁止しましたが、植民地である朝鮮半島等からの酌婦渡航を禁止しませんでした。醜業条約も植民地には適用しないと決めました。つまり、日本政府は、あえて朝鮮半島等からの「慰安婦」連行を行いやすいようにしました(この件は小林久公さんの研究に詳しい)。
河内さんへの質問です。
(1) 醜業条約の強制の定義に詐偽が含まれることをどうご覧になりますか。
(2) 朝鮮人、中国人等の「慰安婦」に未成年者が多数いたことをご存知ですか。
(3) それとも、条約は植民地に適用されないという理由から、強制の定義そのものを否定されるのでしょうか。
(4)それとも、これ以外の強制の定義を想定されているのでしょうか。