Sunday, January 10, 2016

暴力に抗する思考と実践――岡野平和学宣言

岡野八代『戦争に抗する――ケアの倫理と平和の思想』(岩波書店)
ムーミンがまたまた意欲作を出した。
ど~~ん、と派手に出したような気もするのに、そっと控えめに提示しているようにも見える。この両義性が本書の論理のいたるところで魅力を発揮する。だが、それは本書の意義のゼロコンマ1%にすぎない。
本書の意義は近代政治思想の本流に棹差しながら、本流を乗り越える思想の挑戦にある。著者は近代政治思想を鍛え直すとか、乗り越えることに第一の課題を据えているわけではない。近代政治思想を批判しつつ鍛え直し、鍛え直しつつ乗り越え、乗り越えつつ立ち戻り、虹の彼方に新しい平和学を予感させる。なぜなら、日本と世界の政治の現実が前近代への強烈な退行を牽引している一方で、近代政治思想から排除されてきた第三項、第四項が主体として登場しているからである。
ムーミンが闘うフィールドはまず正義論である。性奴隷とされた「慰安婦」の正義を求める闘いが提起する理論課題を引き受けて、近代の正義を問い直し、編み直し、時に過激に引き裂きながら、来るべき地べたの正義を手繰り寄せる。
次のフィールドは立憲主義と民主主義である。立憲主義と民主主義の歴史的必然性と限界を見据えつつ、しかし、立憲主義の破壊を許さない、民主主義の簒奪を許さない、思想の根拠をていねいに掘り起こす。その手つきは軽やかでありながら、たしかな強さを持っている。カミソリと大ナタと削岩機を兼ね備えた強靭な理論である。

『法の政治学』『シティズンシップの政治学』『フェミニズムの政治学』という<政治批判・政治学批判3部作>を通じて構築されてきたケアの倫理は、実践における鍛錬を経て、岡野平和学として立ち上がった。