Saturday, January 30, 2016

美術と社会の緊張と相克を測定する

藤井匡『公共空間の美術』(阿部出版、2016年)
第1章     野外設置される彫刻
第2章     都市空間の中の美術
第3章     コミュニティの再構築
第4章     場所の記憶と記憶
第5章     主題としてのコミュニケーション
第6章     アソシエーションとしての彫刻シンポジウム
2008~2015年に書かれた、野外彫刻、パブリックアート、アートプロジェクトのレポートを整理・編集した1冊。野外彫刻のはじまりから、パブリックアートやアートプロジェクトへの展開を跡付け、1960年代に始まり、21世紀になって衰退している野外彫刻の可能性を改めて問う。
野外彫刻の設置事業は1961年の宇部市野外彫刻展に始まり、その後「彫刻のあるまちづくり」は鎌倉、仙台、福岡、碧南などに広がり全国化したが、日本の社会の中で公共性を獲得し得ないままげんしょうしたが、1990年代からパブリックアート、2000年代にはアートプロジェクトが盛んになった。それらの変遷と関連を具体的に明らかにするため、著者は神奈川県立近代に術刊、桜川市の雨引の里と彫刻、大阪アメニティパーク、宮城県美術館、仙養ケ原石彫刻シンポジウム、姫路護国神社、北名古屋市野外彫刻、あいちトリエンナーレ、別府の「混浴温泉世界」など、全国各地の野外彫刻展、アートプロジェクトに足を運ぶ。いくつかは著者自身が企画した展示でもある。現代日本の彫刻シーンを丹念に紹介し、読者を彫刻アートの鑑賞者に育ててくれる。その視点は「公共空間と美術」「公共空間の美術」であり、美術と社会の関係である。
「私には野外彫刻展や彫刻シンポジウムを過去のものとして扱うという考えはない。パブリックアートやアートプロジェクトによって提出された批判を受けて、野外彫刻展や彫刻シンポジウムの可能性を再び考えることができると思っている。美術の社会的機能を考えるのであれば、現在の社会に迎合するのではなく、それに対抗する視点を提示することもその重要な機能のはずだからである。」

著者は宇部市役所学芸員、フリーランスを経て東京造形大学准教授。著書に『現代彫刻の方法』(美学出版)。