2011年10月、被ばくに関係する労働問題の情報共有のために「被ばく労働を考えるネットワーク(準備会)」ができ、その主催によって、2012年4月22日に東京の代々木八幡区民会館で「どう取り組むか被ばく労働問題 交流討論集会」が開催された。本書はその記録を中心に、加筆等を行った文章で構成されている。
<「3.11」後の被ばく労働の実態――
深刻化する収束・除染作業、拡散する被ばく労働現場!>
被ばく労働は、奴隷的労働であり、主に非正規労働である。このため現代日本における労働問題が直面する多くの問題が集中的に、凝縮的に表れている。
<本書は、決して被ばく労働問題の解決に展望を提示した書物ではないが、隠蔽されてきた、そして今も隠蔽されている被ばく労働問題の一端を暴露し、社会的な取り組みを模索する貴重な情報となっているだろう。>
問題は始まったばかりである。しかも、見えにくい。その性質上見えにくいだけではなく、組織的に隠蔽されている。3.11後、原発に関連する多くの情報が明るみに出るようになったが、それでもまだまだ隠蔽されていることが多い。そして、明るみに出す努力と、隠蔽しようとする力の緊張関係、綱引きが続いている。
例えば、次の指摘に、だれがどのように答えることができるのか。
「2012年3月現在、福島第一原発収束作業のために、すでに1万5,000人が投入されたものと推定されます。彼らは上限いっぱいの線量を浴びているので、今後最低で1年、最長で5年原発労働には従事できないということになります。/このまま上限いっぱいの原発労働者が同じペースで必要になるとすれば、近いうちに原発労働に従事できる登録者を使い切ってしまうことになります。(略)/結論からいえば、原発労働者の絶対的不足により収束作業は続行できないと思います。また、廃炉などとても考えられないことになります。/現在の稼働炉を停止・保守・点検するには、それぞれ1基につき停止と点検の際2,000~2,500人が従事しなければなりません。(略)/被ばく労働のリスクを分散化し、原発労働者の安全を確保するための解決策として、原発作業に従事するための放射線管理手帳の取得目標を100万人単位とするほかありません。/自分らは作業しないから簡単に『廃炉』などと脳天気なことを吹聴する都市部の反原発運動に対して、この事実を公表しなければならないときが近々来るだろうと考えます。『廃炉』にしたいのであれば、提唱するあなた自身も原発労働に従事しなければ最悪の事態につながるかもしれませんよ、と。」(66~67頁)
***もくじ***
もくじ
はじめに 被ばく労働に隠されている原発の本質とこの社会の闇
山谷労働者福祉会館活動委員会 なすび
第1章 被ばく労働をめぐる政策・規制と福島の収束作業
全国労働安全センター連絡会議 西野方庸
第2章 さまざまな労働現場に拡がる被ばく問題
1.港湾労働の現場から 全港湾書記長 松本耕三
2.清掃労働の現場から 東京清掃労働組合一組総支部委員長 岸野静男
第3章 非正規労働(使い捨て労働力)の象徴としての被ばく労働
――日雇い労働の現場から
全国日雇労働組合協議会 中村光男
第4章 原発事故収束作業の実態
フリーター全般労働組合 北島教行
第5章 福島現地の現状と家族の声
1.労働相談などから見えてきたこと いわき自由労働組合書記長 桂 武
2.重くのしかかる仕事がないという現実
――原発作業員の家族の声①
大熊町の明日を考える女性の会 木幡ますみ
3.原発の隠蔽体質は現場の作業員が一番よく知っている
――原発作業員の家族の声②
木田節子
第6章 除染という新たな被ばく労働
山谷労働者福祉会館活動委員会 なすび
あとがき 被ばく労働問題を反/脱原発の取り組みの中に位置づけるために
資 料