山田吉彦『日本国境戦争――21世紀・日本の海をめぐる攻防』(ソフトバンク新書、2011年)
この手の危機を煽る本はなるべく買わないようにしているが、領土問題は無視できないので、順に読み進めている。領土問題の研究書には優れたものもあるが、最近出ているのは、領土紛争に間に合わせで緊急出版したようなやっつけ本も少なくない。その点では、本書著者は専門家(東海大学海洋学部教授)なので、買ってみた。『日本の国境』(新潮新書)『日本は世界4位の海洋大国』(講談社プラスアルファ新書)――以上の2冊も前に読んだ――『驚いた!知らなかった日本国境の新事実』(じっぴコンパクト新書)がある。新書ばかりという気もするが・・・。ファーブル昆虫記の山田吉彦(きだみのる)とは別人。
本書は領土問題の論争そのものではなく、領土問題を巡って起きている現実の政治現象を読み解く本だ。特に中国と日本の対立を、中国の戦略と、無戦略・無策の日本との関係の中で論じている。従って、話は軍事戦略と外交戦略の世界に入らざるを得ない。「日本国境戦争」という扇情的なタイトルになる。
<尖閣、竹島、北方領土――だけではない。
日本は、もう10年も前から“戦争”に突入している!>
と言う。
<尖閣事件は決して突発的に起こったものではない。
日本の国力低下に比例するかのように領土・領海を巡る攻防は近年激しさを増している。
"海上の国境"を巡る日本、中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシアそれぞれの思惑と攻防を描き、日本の選ぶべき道を提言する。>
日本の国力低下に比例するかのように領土・領海を巡る攻防は近年激しさを増している。
"海上の国境"を巡る日本、中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシアそれぞれの思惑と攻防を描き、日本の選ぶべき道を提言する。>
あるいは、
<2001年12月、冬の日本海に北朝鮮不審船が出現。海上保安庁は戦後50余年の禁を破り、
初めて"敵性艦"に対して発砲、交戦状態となりました。
以来10年、日本の海を巡る情勢は大きく動きました。
尖閣諸島、竹島、北方領土といった領土と周辺領海は、常に一触即発の状況下にありますが、
"海の上の国境"は一般の人々の目に触れることもなく、それを巡る攻防もまた、これまであまり多くは語られてきませんでした。
領海を入れれば世界第6位の面積を誇る海洋国家日本の全容と、"海の上の国境"を巡る周辺諸国の利権とプライド。
先見無き日本政治の迷走と、各国のしたたかな戦略。
尖閣問題でマスコミから引っ張りだことなった著者が、これまで知られることのなかったさまざまな現実と、
海洋国家として日本が取るべき戦略などについて、すべてを語っています。>
初めて"敵性艦"に対して発砲、交戦状態となりました。
以来10年、日本の海を巡る情勢は大きく動きました。
尖閣諸島、竹島、北方領土といった領土と周辺領海は、常に一触即発の状況下にありますが、
"海の上の国境"は一般の人々の目に触れることもなく、それを巡る攻防もまた、これまであまり多くは語られてきませんでした。
領海を入れれば世界第6位の面積を誇る海洋国家日本の全容と、"海の上の国境"を巡る周辺諸国の利権とプライド。
先見無き日本政治の迷走と、各国のしたたかな戦略。
尖閣問題でマスコミから引っ張りだことなった著者が、これまで知られることのなかったさまざまな現実と、
海洋国家として日本が取るべき戦略などについて、すべてを語っています。>
日本周辺の海で起きてきた紛争、事件、出来事の政治的意味を整理し、その変遷の中で物事を理解しようという姿勢はよくわかるし、参考になる。
読み始めて気になるのは、事実を述べているよりも、推測・推論が非常に多いことだ。中国側の行動を根拠に、あれこれと推論をし、その推論結果をもとに次々と議論を繋げている。著者に乗せられてどんどん読んでいくと、推論があたかも事実であるかの如く錯覚する読者も少なくないだろう。
推論の仕方が非合理的と言うことではない。なるほど、そういう推論もありうるな、と思うことが多い。しかし、推論は推論だ。次の議論の根拠にしてしまうのは危険だ。
他方、おそらく著者は、推論の根拠となる別の事実や何らかの情報を持っているのだろうとも思う。情報源を具体的に書くと差支えることもあって、そうした部分を推論の形で書いているのかもしれない。そう考えると、読み進めることもできる。
「日本の海」という視点、「島は点ではなく、海を含む面である」という視点も参考になる。