『脱原発とデモ、――そして、民主主義』(筑摩書房、2012年)
今日も扁桃腺が叛乱のため、休養。
気分は明るく、BGMはRAGGA RAGGA SOCA。カリブ海のセント・ヴィンセント・グレナディンズで買ったラップのCDだ。冒頭、Mystic VibrationのI LIKE IT (C’EST BON)に始まり、TROOTSのDON’T BE SHY、SKARYONのENGINE、DJ TARRUSのENERGYなどと続き、最後はYAPHATOOのWISDOM。なぜ日本ではこういうラップが紹介されないんだろう。答えは簡単。資本の論理に乗っかった売れっ子を紹介するのが音楽評論家の仕事だから。
さて、本書は2011年5月7日デモの松本哉(素人の乱)発言に始まり、6月11日デモの雨宮処凛(作家・活動家)や山下陽光(素人の乱)らの発言、8月6日の毛利嘉孝(『ストリートの思想』著者)、9月11日の柄谷行人(思想家)、いとうせいこう(作家)、9月19日の鎌田慧(作家)、落合恵子(作家)、山本太郎(俳優)、10月22日の坂本龍一(音楽家)らの発言を収録している。有名人も取り揃えて20数名の発言、エッセイ。
そして、柄谷行人・鵜飼哲・小熊英二起草の「デモと広場の自由」のための共同声明も収録されている。
重要な問いかけを含む著作なので推薦したいが、やや力が入らない。
第1の理由は、発言のほとんどが20011年のものなのに、なぜ今発売なのか。本書収録のデータならば一年前に出版していなければならない内容だ。賞味期限切れの文章を出版する意味は何だろう。
第2の理由は、一つ一つの文章がその都度の発言やエッセイで、読み込むべき文章ではないことだ。現場での発言としてはとても重要であっただろう。その記録を残すという意味では出版しておいたほうがよいとはいえ、運動論としての問題提起としてはすでに語りつくされたことをなぞっているにとどまることになりかねない。
第3の理由は、問題提起を理論的に深める努力がなされていない。柄谷行人、小熊英二、毛利嘉孝などの理論家がそろっていながら、そして本書末尾には平井玄(社会・音楽評論家、『愛と憎しみの新宿』著者)が控えていながら、だ。平井にはもう少しページを増やして、きちんと論じさせるべきだっただろう。
申し訳ないが、われわれが出した『デモ!オキュパイ!未来のための直接行動』(三一書房)のほうが、ずっと内容が濃く、理論的にも実践的にもずっと重要な問題提起をしている。
http://31shobo.com/?p=1480