小倉紀蔵編『新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮――市民経済と大衆文化が明らかにする真実の姿』(角川書店)
<北朝鮮での現地調査を通して明らかにする、新聞・テレビがなぜか触れようとしない真実の北朝鮮の姿。携帯電話が普及し、高層マンション建設に湧く、経済発展が進みつつある最新の模様をレポート。>
編者は「韓国思想・文化」研究者で京都大学准教授。
本書は「朝鮮新報」では、次のように紹介されている。
本書の執筆者は、「文化・学術・市民交流を促進する日朝友好京都ネット」(「日朝友好京都ネット」)の2012年春の訪問団参加者である。学者が中心だが、市民も参加したという。学者の専攻は様々である。
注目されるのは、佐々木道博「発展する北朝鮮経済の現状と展望」と、林廣茂「北朝鮮の『経済と暮らし』へのインサイト」である。前者は、ごく近年になって朝鮮経済は上向きになり、今後の発展が望めることを強調している。後者は、朝鮮経済を本格的に離陸させるための提案を試みている。
礒﨑敦仁「北朝鮮観光案内・旅行記変遷史」は、朝鮮旅行ガイドブックの変遷とともに、日本人による旅行記の変遷も取り上げている。日本人による旅行記の不備、誤り、先入見などもていねいに紹介されている。その礒﨑論文を収録した本書の諸論考が、新しい朝鮮レポートとして意義あるものになりえているかが重要である。
朝鮮経済の実態把握が非常に難しいことは、林論文が、国連統計とCIA統計を比較して論じているとおりであり、西側諸国の通念では十分に理解できない。ただ、携帯電話が100万台普及しているという情報が一つのカギになるかもしれない。2008年夏に見たピョンヤンでは携帯電話が普及しているとはとても思えなかったが、その後に急速に普及しているということだ。今後の推移が注目される。
中村一成「北朝鮮――『闇』のないスクリーン」、北岡裕「北朝鮮の歌と人民の心・生活」も楽しく読める。
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追記
本書の書評がネット上に出ているとお知らせがあったので読んでみた。本書を「北朝鮮礼賛本」と批判している。
第1に、本書全体を読んでいるとは到底考えられない。まえがきと編者執筆の第1章だけを読んだだけで、非難している。
第2に、「声を大にして批判しない限り北朝鮮礼賛本だ」といわんばかりの論調である。
朝鮮に関する本はこれまで多数出ているが、本書は近年の経済状況や文化状況の変容を紹介して、その事実についての問いを投げかけている。本書は、あえてタイトルに「新聞・テレビが伝えなかった」と書いている。
本書を批判する際には、
(1)本書が紹介する事実が事実に反するのではないかとか、
(2)いや、すでにそのようなことは新聞・テレビによって紹介されてきたとか、あるいは
(3)紹介されている事実についての評価・解釈に疑問がある、
などの批判をするべきだろう。
そうした批判はなく、「批判本か、それとも礼賛本か」という短絡的な思考で本書を批判しても、議論にならない。
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追記2
ジャーナリストの伊藤孝司が、『週刊金曜日』2012年10月19日号から4回連載で「知られざる朝鮮」と題し、表紙裏のカラーページで、写真と文を掲載し始めた。
本年8月下旬から9月上旬にかけての朝鮮民主主義人民共和国での取材では、首都・ピョンヤンだけでなく地方都市でも撮影の制約がまったくなかったという。
これまで何度も何度も訪朝してきた伊藤が述べているので、取材が相当オープンになったのは間違いない。
この状況をきちんと分析できる人物がいるといいのだが。
情報不足の状況に乗じてデタラメ勝手な主張をしてきた自称「北朝鮮研究者」には期待できないので、誰かちゃんと分析してほしい。
この状況をきちんと分析できる人物がいるといいのだが。
情報不足の状況に乗じてデタラメ勝手な主張をしてきた自称「北朝鮮研究者」には期待できないので、誰かちゃんと分析してほしい。