Wednesday, November 06, 2013
最新の刑事訴訟法教科書に学ぶ
内田博史編『歴史に学ぶ刑事訴訟法』(法律文化社)――編者とその仲間たち(主に九州大学大学院出身の刑事法学者)による新しい刑事訴訟法の教科書である。序章から10章まで、全部で11章を分担執筆している。毎日1章ずつ読んだ。よくある分担執筆本と違って、各章の叙述が、文字通り「歴史に学ぶ」という問題意識に貫かれていて、いずれも高い水準となっているので、読み応えがある。近代日本の刑事訴訟法の歴史的教訓をいかに受け止め、いかに反省して、より良い刑事訴訟法に発展させていくのかという観点だが、それは現在の支配層には全くない観点である。最高裁事務総局をはじめ、法務・検察も、刑事法学の主流派も、現在の刑事訴訟がよいものであり、基本的に正しいと開き直っている。代用監獄をはじめとする「人質司法」、拷問その他の残虐な行為だらけの人権侵害司法、死刑冤罪をはじめとする誤判を、まともに反省すると大改革をしなければならないが、官僚司法とその提灯持ちは改革を拒否し続けている。本書は、そうした現状を歴史的にとらえ返して改革の道を探る。また、日本国憲法の基本的人権規定を正しく解釈して、刑事訴訟法の解釈を行う姿勢も鮮明である。国際人権法にも学びつつ、国際水準に照らして恥ずかしくない司法を模索する。執筆者の多くとは、長年、研究会で一緒だったので顔を思い浮かべながら読んだ。とても勉強になる1冊だが、一番の疑問は本書の読者層だ。教科書なので、まずは学生だが、学部学生には水準が高すぎる。普通の教科書を2~3冊読んだ専門ゼミの学生ならなんとかこなせるのだろうか。法科大学院向けでもないだろう。研究者養成の大学院生には向いているだろう。もちろん、刑事法学者、検察官、裁判官、弁護士も主要な対象ではあるだろうが、読む気のないのがたくさんいそうだ。たぶん、私が一番適切な読者だ。SAN CARLO, Ticino,2009.