Monday, March 12, 2018

ヘイト・クライム禁止法(145)ギリシア


ギリシア政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/GRC/20-22. )によると、1979年の法律927号が差別、憎悪、暴力の扇動を処罰してきたが、2014年9月、これを改正する法律4285号が採択された。改正理由は2008年の人種主義表現と闘うためのEU評議会枠組み決定である。2014年改正法により次の4項が処罰対象とされた。

    口頭、印刷物、インターネットその他の手段で、公共の秩序を危険にし、上記の人々の生命、自由、身体の統合に脅威となる方法で、人種、皮膚の色、宗教、門地(世系)、国民的民族的出身、性的志向、ジェンダー・アイデンティティ、障害の特徴を有する諸個人又はその集団に対して、差別、憎悪、暴力を惹起する行為や活動を、公然と教唆又は煽動すること。

    公共の秩序を危険にする方法で、上記の人々が使用する物への損害を煽動すること。

    上記の行為の実行を組織的に追求する人々の組織又は連合を設立し、参加すること。

    口頭、印刷物、インターネットその他の手段で、国際法廷又はHellenic議会によって認定されたジェノサイド犯罪、戦争犯罪、人道に対する罪、ホロコースト及びナチス犯罪の実行又はその深刻さを、公然と     すること等。

 これらの犯罪の刑罰は、3ヶ月以上3年以下の刑事施設収容、及び5000以上2万以下のユーロである。犯罪が実行に至ったり、犯行者が公務員であった場合、刑罰は加重される。インターネット上で行われた場合も処罰される。

 さらに、改正法は法人の責任を導入した。上記の犯罪行為が法人(国家や国際機関を除く)の利益のために又は法人のために、又は人々の連合のために、又は法人の機関として行われた場合にも刑罰が適用され、1万以上10万以下のユーロの罰金である。また、当該法人は、公益事業、公共サービス、公共契約から1月以上6ヶ月以下の期間、排除される。

 2005年の法律3304号16条は、公共への商品やサービス提供に関して、民族又は人種的出身、宗教又はその他の信仰、年齢、性的志向を理由に差別的取り扱いの禁止に違反した者は、6ヶ月の刑事施設収容及び1000以上5000以下のユーロの罰金とする。

 2012~13年、在住外国人に対する攻撃が起きた。過激主義団体や個人が経済危機の影響を受けて住民の一部に対する怒りや不同意を表明しようとしている。ギリシアがEUへの通路に当たるため、年間10万人に及ぶ非正規の移住者という事態に対する反発である。

 2011年、国家人権委員会は23NGOが参加する「レイシスト暴力記録ネットワーク」を設立し、人種主義事件を記録している。2013年には166件の事件を記録し、そのうち143件が移住者や難民に対するものであった。国家人権委員会は一連の報告と勧告をまとめ、人種主義に対処している。

 2013年、オンブズマンが人種主義暴力現象に焦点を当てた報告書を出した。人種主義的攻撃の申立て281件を調査し、人種主義暴力事件の捜査、被害者保護、人権教育について勧告を出した。

 2013年、「黄金の夜明け」という政党が議会に進出したが、学者やメディアはこの政党をネオナチと呼んでいる。この犯罪組織の構成員が捜査対象となり、指導者など70名が訴追された。裁判は2015年4月20日に始まる。2013年の法律4203号2条に従って、政党の指導者が「犯罪組織」構成員として訴追されたので、この政党への国家助成を停止した。

 2013年の法律4139号66条は、刑法79条3項を導入し、ヘイト動機の犯罪実行を刑罰加重事由とし、執行猶予を付さないことにした。2013年11月、外国人市民の店舗に対する放火事件でこの条項が初適用となった。

 メディアにおけるヘイト・スピーチの禁止も行っている。2010年の大統領命令109号がラジオ・テレヴィに適用されるだけでなく、ニューメディアにも適用される。大統領命令109号は、マイノリティの保護に脅威となる場合やヘイトの煽動の場合、放送の自由に制限を加えている。大統領命令7条2項は、公共放送も民間放送も、人格、名誉、私生活等を尊重するように定めている。ただし、ギリシア法にはインターネット利用者のアクセスを制限する規定はない。

 人種差別撤廃委員会はギリシアに次のように勧告した(CERD/C/GRC/CO/20-22. 3 October 2016)。2014年の法律4285号の積極面に留意するが、人種的優越性の思想の流布を犯罪としていない上、人種主義団体を違法であると宣言し禁止する手続きの定めがないなど、人種差別撤廃条約第4条に完全に合致していないので、条約第4条に完全に合致させるよう勧告する。現代的人種主義に関する特別報告者がすでに勧告したように、黄金の夜明けのように人種差別を助長・煽動する組織を異常であると宣言し、禁止するべきである。黄金の夜明けの登場した2009年以来、メディアやインターネット上で、移住者、ロマ、ユダヤ人、ムスリムに対するヘイト・スピーチが増えている。ヘイト・スピーチとヘイト・クライムを効果的に予防し、これと闘い、処罰するよう促す。条約第4条に定める行為について個人を訴追するために適切な措置を講じ、次回報告書において報告すること。裁判官、警察官、検察官にヘイト・クライムやヘイト・スピーチと闘うための研修を強化すること。メデチィアが非市民や民族的マイノリティにステレオタイプや否定的名攻撃を行わないよう、監督と規制を強化すること。関連諸団体と協力して、人種主義事件の報告がなされるようにすること。ヘイト・クライムの統計のため情報収集制度を促進すること。反レイシズム行動計画を策定し、効果的に実施すること。