本庄武・武内謙治編『刑罰制度改革の前に考えておくべきこと』(日本評論社)
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本書第3部「国際的動向」には4本の論文が収められている。
大谷彬矩「ドイツにおける処遇の位置づけの動向」
相澤育郎「フランスにおける作業義務の廃止と活動義務の創設」
高橋有紀「イギリスにおける拘禁刑改革――白書『刑務所の安全と改革』を中心に」
寺中 誠「マンデラ・ルールズは刑罰改革の旗印となるか――国際基準としての被拘禁者最低基準規則」
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独仏英の紹介があり、米がないのはたまたまだろう。刑事法学、とくに処遇に関しては、この4カ国、及びオランダ、ノルウェー、スウェーデンなどの紹介がなされてきた。理由は、以前からそうだった、だけなのだが。ともあれ、独仏英における改革のあり方、歴史的社会的背景の相違と、改革を巡る議論におけるある種の共通性、日本で議論するために参考になる面と、参考にしてはいけない面などが明らかにされている。
国際人権法としてマンデラ・ルールズが取り上げられている。1957年の被拘禁者処遇最低基準規則SMRが、2010年から改訂作業に入り、2015年に改訂にたどり着くまでの経過を整理し、そこでの重要論点を紹介し、被拘禁者の人権保障とプライバシー保護、医療やヘルスケア・サービス、規律・懲罰規定の厳格化、被拘禁者ファイルと緊急時の対応、独立した監視機関への通報、脆弱なグループに属する被拘禁者たちへの特別の配慮、弁護士へのアクセスについて詳説している。被収容者を権利の主体として位置づける観点はなお弱いという。マンデラ・ルールズについて自分できちんと見ていなかったので、参考になる。
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本書はしがきによると、「次代を担う若手研究者に最新の海外の状況を紹介していただいた」とある。えっっ、寺中誠は若手だったのか!!と驚いたが、もちろんここでの若手とは、大谷彬矩、相澤育郎、高橋有紀のことだ。国際人権法も若手研究者がどんどん出てきてくれると良いが。本書全体でも、巻頭論文の村井敏邦は長老中の長老になりつつある。かつて切り込み隊長だった石塚伸一や葛野尋之もいつの間にか重鎮になっている。土井政和にしても赤池一将にしても、論文を見る限り、まだ老成はせず適度に円熟しているようだ(褒めすぎか)。大学院に入って研究を始めてから40年になる私はいまだに素人感覚でお勉強を続けている。永遠の再入門。