Thursday, June 20, 2013

ヘイト・スピーチ処罰は世界の常識である(1)

人種差別や人種主義の煽動(ヘイト・スピーチ)は、ヘイト・クライム(憎悪犯罪)の一つである。英米法ではヘイト・クライム法が制定されている。ヘイト・クライムには、差別的動機による暴力や、差別発言を伴った暴力が含まれる。ヘイト・スピーチのなかには、暴行・脅迫を伴うものと、伴わないものがある。なお、ヘイト・スピーチという用語は法律用語として成熟していないため、さまざまな意味で用いられ、議論が混乱しがちである。ここでは人種差別撤廃条約第4条の人種差別の煽動を中心に理解している。                                            ヘイト・スピーチの処罰について、日本では次のような主張がなされることがある。「民主主義社会では表現の自由が重要であるから、ヘイト・スピーチの法規制は困難である。」しかし、この主張はほとんど「妄想」と言うしかない。                                                            第1に、世界の民主主義社会のほとんどがヘイト・スピーチを処罰している。アメリカ合州国では純粋なヘイト・スピーチの処罰が難しいとされていることは事実だが、他の欧州諸国では処罰するのが当たり前である。アフリカ、アジア、アメリカ州にも多数の立法例がある。                                                                      第2に、「人種差別表現」が表現の自由に含まれるという論証がなされていない。国際自由権規約も、人種差別撤廃条約も、欧州の民主主義社会とされている多くの諸国も、「人種差別表現の自由」を認めていない。表現の自由が重要であるのは当然だが、だからと言って「人種差別表現の自由」を唱えるのは誤りである。                                                                         このブログで、ヘイト・クライムやヘイト・スピーチの規制法や処罰実例について、これまで多数紹介してきた。今回から数回にわたって、より積極的に私見を交えながら、国際人権法の常識を紹介していきたい。すなわち、「表現の自由を守るためにヘイト・スピーチを処罰する」。「民主主義が成熟した社会ではヘイト・スピーチは犯罪である」。                                                                          <参考文献>                                                                       前田 朗のヘイト・クライム論                                                                       『ヘイト・クライム』(三一書房労組、2010年)以後の論文                                                                         *                                                                                           「ヘイト・クライムを定義する(1)~(6)」『統一評論』536号、537号、541号、542号(2010年)、546号、547号(2011年)                                                                                  「ヘイト・クライムはなぜ悪質か(1)~(5)」『アジェンダ』30号、31号(2010年)、32号、33号、34号(2011年)                                                                                「2010年の民族差別と排外主義」『統一評論』543号(2011年)                                                                 「ヘイト・クライム法研究の課題」『法と民主主義』448号、449号(2010年)                                                                              「ヘイト・クライム法研究の展開」『現代排外主義と差別的表現規制』(第二東京弁護士会人権擁護委員会、2011年)                                                                                         「差別集団・在特会に有罪判決」『統一評論』550号(2011年)                                                                                「アメリカのヘイト・クライム法」『統一評論』551号(2011年)                                                                          「ヘイト・クライム法研究の現在」村井敏邦先生古稀祝賀論文集『人権の刑事法学』(日本評論社、2011年)                                                                                 「差別禁止法をつくろう! 差別禁止法の世界的動向と日本」『解放新聞東京版』779号、780号(2012年)                                                                              「誰がヘイト・クライム被害を受けるか(1)~(4)」『統一評論』556、557号、566号(2012年)、568号(2013年)                                                                                       「人種差別撤廃委員会第八〇会期」『統一評論』558、559号(2012年)                                                                              「差別表現の自由はあるか(1)~(4)」『統一評論』560号、561号、562号、563号(2012年)                                                                                                          「日本における差別犯罪とその煽動について(1)~(4)」『解放新聞東京版』791号、792号、793号、794号(2012年)                                                                                      「在特会・差別街宣に賠償命令」『マスコミ市民』524号(2012年)                                                                         「差別・排外主義の在特会に賠償命令」『統一評論』565号(2012年)                                                                              「ヘイト・クライム法研究の射程」『龍谷大学矯正・保護総合センター研究年報』第2号(2012)                                                                                                「国連人権理事会の普遍的定期審査(二)」『統一評論』567号(2013年)                                                                                 「人種差別撤廃委員会・日本政府報告書」『統一評論』569号(2013年)                                                                             「自由権規約委員会・日本政府報告書」『統一評論』570号(2013年)                                                                                   「ヘイト・クライム処罰は世界の常識」『イオ』202号(2013年)                                                                                        「ヘイト・スピーチは『表現の自由』か?」『ジャーナリスト』661号(2013年)                                                                                          「差別煽動禁止に関する国連ラバト行動(一)~(二)[未完]」『統一評論』571・572号(2013年)                                                                                                             「ヘイト・クライム法研究の地平」足立昌勝先生古稀記念論文集『近代刑法の現代的論点』(社会評論社、2013年7月予定)                                                                                         「ヘイト・クライム法研究の論点」『法の科学』44号(日本評論社、2013年7月予定)