エルミタージュと言えばロシアのサンクトペテルブルクの超有名美術館だが、ローザンヌにも同じ名前の小さな美術館がある。
ローザンヌの小金持ちが郊外の丘の上の公園に建てた別荘が、エルミタージュ財団の美術館になっている。鉄道のローザンヌ駅から市バスで10分ほどで降りて、数分歩く。この春はシニャック展をやっている。いまさらシニャックでもないかと思いながら、エルミタージュの他の所蔵品を観たいと思って行ってみたら、全館シニャックだった。
「印象派から新印象派へ」というコンセプトで、シニャック(1863~1935)の生涯を追いながら作品を展示している。油彩、水彩、デッサン、スケッチ等140点。サントロペが多数、モン・サンミシェル、ヴェニス、コンスタンチンノープル、マルセイユ。とにかくシニャックだ。きらめく水、揺れる海、遠望する港。色彩の分割、点描法の完成図を何枚も堪能。新印象派への展開の流れで言うと、スーラが亡くなり、ピサロが方向転換したため、シニャックが背負ったという解説になっていた。
今回おおもしろかったのは、むしろ晩年の「フランスの港」シリーズだ。ガソトン・レヴィの財政支援を受け手、1929~31年、シニャックはフランス各地を旅し、港を描き続けた。同じ絵を2枚描き、1枚はレヴィに、1枚は自分に。1929年3月25日のセテの港に始まり、3年間で8回の旅行を経て、31年4月30日、ポート・ド・フランスで旅を終えた。この時期の絵は水彩画で、しかも色彩感覚あふれるものと、黒一色の者がある。点描法は用いていない。
エルミタージュには、ファンタン・ラトゥールの花、シスレーのセーヌ、ヴァロットンのヴァンスの小道、煙草を吸う女、ボシャールのヌード、シャヴァンヌのヴヴェイ、ボシオンのシオン城、ドガの踊り子などもあるが、エルミタージュ美術館の建物が別荘として使われていた1853年の、フランソワ・ボネのエルミタージュの宴会図がある。広間とテラスの宴席で興じる人帯とを描いている。彼方にレマン湖も見える。なるほど、ここでこんな風に夕暮れ時の宴会をしていたのだな、とわかる。室内が明るいのはどんな光だろう。鯨油かな。ここまで岡を登ってくるのに、当時どうやったのか。馬車では結構大変だろうななどと楽しめる。