Tuesday, March 08, 2016

ベルン美術館散歩

パウル・クレー・センターで「Chinese Whispers」展をやっていて、リレー・チケットをくれた。半分はパウル・クレー・センターで、半分はベルン美術館で展示されている。このチケットで両方見ることができる。
「中国人の囁き」って何だろうと思ったら、解説を読むと「伝言ゲーム」のことだった。1人目が2人目に言葉を伝える、聞いた2人目が3人目に伝え、3人目が4人目・・・と伝わるうちに話が変容していく。オリジナル・メッセージはどこまで変容していくか。中国現代アート展を西洋で開催するということは、一種の伝言ゲームである。なぜなら、文化も歴史も政治も異なるため、表現者の意図と異なることを観衆が受け止める可能性が極めて高いからである。グローバルなネットワークでつながれた現代世界ではあるが、まだまだ落差が大きい。21世紀の現代中国アート150点を一挙に展示する展覧会はいかなる「伝言ゲーム」となるか。
だが、西洋で開催された現代中国アートを日本人が鑑賞するとなると、そこには違った意味での、やはり「伝言ゲーム」が成立しているだろう。しかも、中国現代アートについて素養のない日本人が。
ウリ・シグというビジネスマンにして一時はスイス大使を務めた人物が、1970年代から中国アートを収集し続けた。現代中国アートの活性化をもたらした背後の人物のようだ。ウリ・シグの収集品を2005年に一度展覧会でやっているという。そして、2019年に香港に新しい大規模美術館ができる。ウリ・シグの収集品はそこに寄贈されるという。その前に西欧で展覧会を開催中という訳だ。
クレー・センターの展示の第1号だけは名前を知っているアイ・ウェイウェイだ。1957年北京生まれで、現代中国を代表するアーティストだ。「鳥の巣」は一般の日本人でも知っている。
それ以外の70人ほどのアーティストは知らない。
1940年代生まれが、リ・シャン、1名。1950年代生まれが、アイ・ウェイウェイを含めて、5名。1960年代生まれが、17名。1970年代生まれが、32名。1980年代生まれが、16名。
絵画あり、書あり、彫刻あり、写真あり、映像あり、掛け軸あり、その他、何と表現しようのない様々な作品がずらり。
意外性を狙った、早い者勝ちの一発芸、といった作品も少なくないが、絵画には中国芸術と西欧芸術の混合と反発を示すものや、潰れた巨大な洗車のように政治的メッセージに満ちたものや、月の兎のようにかわいらしいがドキリとさせる作品など、実に多様だ。ナチス・ドイツのハーケンクロイツの下で白鳥が全裸の女性を襲う性的かつ政治的絵画の前で、スイス人たちは何やら感想を語り合っていた。

映像作品の一つに、男女のカップルがパリの街角に立ち尽くす、というコンセプトの作品があった。カップルは動かず、言葉も発しない。ただじっと立っている。カメラはカップルの頭越しにパリの町を見せる。ただそれだけ。そうか、中国の若いカップルがパリを訪れた時の違和感を表現しているのだな、と「理解」して、次に移ろうとしたとき、最後にテロップが「日本人のパリ幻想」。若い日本人カップルがいまやパリの町を見ても感銘を受けず、むしろ落胆して、何だ、この町、と感じてしまう、そのズレを若い中国人アーティスとが作品化している。不思議なものだ。まさに伝言ゲーム。

Baillival, St-Saphorin, Luc Massy, Epesses Vaud,2013.