横山順一『輪廻する宇宙』(ブルーバックス)
ダライ・ラマの輪廻転生の話から始まるがトンデモ本ではない。まじめな現代宇宙論の現状を素人向けに優しく解説した入門編だ。ダライ・ラマは導入のエピソードと思ったら、最後に再び登場して、宇宙の輪廻の話と結びつけている。もちろん科学は科学として、宗教は宗教として区別しているので、混乱があるわけではない。ただ、宇宙論を「わたしたちはどこから来たのか」と問い、最後に宇宙の将来を問うので、現代物理学から少しはみ出した論述もなされている。基本は、宇宙論の量子力学的考察の解説だ。著者は東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター教授。やたらに長いな。
この種の話はブルーバックスで何冊も読んだが、10年、20年の間に科学がどんどん進歩するので、おもしろい。昔はビッグバンが話題の中心だったが、いまはダークエネルギーだ。宇宙の晴れ上がり、量子のゆらぎと転移、加速膨張する宇宙。話はタテにヨコにどんどん広がる。大きすぎてついていけないと思うと、量子の話になり、それがまた宇宙論になる。
1か所だけ、本書の内容から飛び抜けてはずれた記述がある。日本の現状を憂えてのことだ。
「指導者層の無能と不誠実は目を覆わんばかりであり、ましてや敗戦後七〇年かかって築き上げてきた平和日本のブランド価値を認識できないばかりか、国家間のせめぎあいを、幼稚園児の喧嘩と同じレベルでしか解釈できない低能な人物を首相に選ぶような与党の面々を見る限り、わが国の反知性主義もここまで来たかとの慨嘆を禁じえない。」(184頁)
ブルーバックスでこういう文章に出会うことは、通常、ない。よほど腹に据えかねるのだろう。まあ、まともな人間ならこのように考えるのは当たり前だが。