Wednesday, August 15, 2012

拷問犯人を追い詰める


法の廃墟(20)



無罪!』2007年12月号





逃げるラムズフェルド



 一〇月二六日、国際人権連盟、憲法的権利センター、欧州憲法人権センター、フランス人権連盟は共同してドナルド・ラムズフェルド元アメリカ国防長官をパリ地方検察庁に告発した。被疑事実は拷問を命令または容認したことである。ラムズフェルドはフランスの外交政策雑誌の求めで講演するためにパリに滞在していたが、告発のニュースを知るや、ジャーナリストや人権法律家の目を逃れるためアメリカ大使館に逃げ込んだ。

 国際人権連盟など四団体はラムズフェルド告発の経緯とラムズフェルド逃走についてプレスリリースを発表した。

マイケル・ラトナー(憲法的権利センター所長)は「ラムズフェルドに対する告発は、拷問計画に関与した米国高官が裁判にかけられるまで、われわれが休むことはないことを示している。ラムズフェルドは隠れる場所はないと思い知らねばならない。拷問犯人は人類の敵なのだから」と述べた。

スーハイ・ベルハッセン(国際人権連盟議長)は「フランスには、グアンタナモとイラクにおける拷問犯罪についてラムズフェルドの責任を捜査し訴追する義務がある。拷問被疑者がフランス領内に立ち入れば、フランスには捜査を開始する以外の選択肢はない。不処罰に対する闘いは政策の名によって犠牲にされたりしない。フランスが犯罪者の安全な避難所にならないようフランスに呼びかける」と述べた。

ウォルフガング・カレク(欧州憲法人権センター事務局長)は「不処罰と闘うがゆえに、拷問事件について管轄権のある場所どこでも捜査と訴追を要求する」と語った。

告発によると、ラムズフェルドその他の高官たちが拷問に直接関与したり、命令した責任があると示す米国政府文書があるにもかかわらず、アメリカおよびイラク当局が彼らの責任を解明する捜査を行わないので、フランスには本件を取り上げる法的責任がある。なぜなら、アメリカもフランスも拷問等禁止条約(一九八四年)を批准している。フランス司法は、拷問被疑者がフランス領内にいるならば拷問等禁止条約のもとで訴追する義務がある。ラムズフェルドがフランスに滞在しているから、グアンタナモ、アブグレイブ等における被拘禁者に対する拷問、虐待、非人間的な取り扱いを命令または容認したラムズフェルドを訴追する管轄権をフランス司法が有する。ラムズフェルドは国防長官を辞任したから、もはや国家元首や政府高官に認められている免責特権を主張できない。

ラムズフェルド責任追及の試みはこれが初めてではない。二〇〇四年と二〇〇五年に国際人権連盟等は、やはり管轄権を有するドイツでも告発を行ったが却下された。二〇〇六年には国際人権NGOやノーベル平和賞受賞者等がラムズフェルドを告発した。アブグレイブに拘禁された一二人のイラク市民も告発している。二〇〇五年にアルゼンチン、二〇〇七年にスウェーデンでも告発がなされた。

一〇月二七日、ラムズフェルドはフランスからドイツへ逃走した。朝食会合の際に「人殺し」「戦争犯罪だ」と叫ぶ人権活動家から隠れ、国境を越えて、告発を却下しているドイツへ逃げた。人権活動家は、EUのシェンゲン協定により、犯罪被疑者を追跡するためにフランス官憲が国境を越えることができると指摘している。

 タンガイ・リチャード(人権活動家)は「ラムズフェルドは、フセインを米軍が追跡した時にフセインがどう感じていたかを知らねばならない。ラムズフェルドは、文明社会では戦争犯罪は割に合わないと学ばなければならない」と述べた。



グアンタナモへの道



映画『グアンタナモ、僕達が見た真実』(原題「グアンタナモへの道」、マイケル・ウィンターボトム/マット・ホワイトクロス監督、イギリス、二〇〇六年)は、キューバの領土を不法占拠し続ける米軍基地グアンタナモにおける拷問の実態を赤裸々に描いている。実際にグアンタナモに送られて拷問された体験者の証言と、その証言を基に制作された映像である。

 イギリスに居住するパキスタン人のアシフ・イクバルは、二〇〇一年九月、結婚のためにパキスタンに向かった。結婚式に招待した友人のローヘル・アフマド、シャフィク・レスルたちもパキスタンを訪れた。カラチで楽しい時間を過ごした彼らは、一〇月に始まった米軍によるアフガニスタン爆撃の情報を知り、アフガニスタンを見たいと思い、結婚式の前にアフガニスタン旅行に出かけた。カンダハル、カブールを経て北部のクンドゥズを訪れるが、戦闘に巻き込まれる。米軍の爆撃と北部同盟の攻撃が激しくなっていたからだ。北部同盟の捕虜となった人々の多数が殺害された。生存者はコンテナトラックによる「死の護送」でマザリシャリフに移送され、一部は米軍に引き渡されて、カンダハルに設置された米軍基地に送られる。タリバン兵士かアルカイーダのメンバーではないかと疑われた三人は、拷問や虐待の中、連日の尋問に耐える。

米軍は、テロリスト容疑者と称して、はるか彼方のグアンタナモ基地にある収容所へ次々と送り込み、激しい拷問を続けた。炎天下にさらし、屈辱的な姿勢を強要する。「動物園」のように檻に閉じ込め、会話も禁止する。移動の際には手錠に加えて、頭に覆いをかぶせる。メディアを通じて一部は世界に報道され、人権NGOや赤十字国際委員会も強く非難した拷問である。しかし、ブッシュ大統領もラムズフェルドも「テロリスト」に対する処遇を正当化する。

常軌を逸した身体的拷問に加えて、精神的拷問や偽計による尋問が続けられるが、三人は希望を失うことなく、容疑を否認し続けた。収容所を訪問したイギリス当局も三人を救出するどころか、陥れようとする。それでも屈しない者には、激しい騒音による虐待や、冷凍室に監禁する拷問も加えられる。

手を変え品を変えて行われた拷問テクニックは、後にイラクのアブグレイブ収容所で再現され、世界を驚かせることになった。

想像を絶する拷問に耐え抜いた三人は、ついに自由を勝ち取りイギリスへ送還され、体験を世界に向けて証言することになった。ブッシュ・ラムズフェルドの犯罪を克明に描いた映画は、二〇〇六年ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞した。「グアンタナモへの道」は、人間性を剥奪する野蛮極まりないブッシュ・ラムズフェルド思想の崩壊の道である。

しかし、グアンタナモでもアフガニスタンでも、いまなお拷問が延々と続いている。拷問犯人を追い詰めるために人権NGOの協力を強化する必要がある。

ブッシュ大統領には国家元首の免責特権があるが、元大統領になれば特権はなくなる。ブッシュやラムズフェルドが来日することになれば、日本でも告発運動を進めなければならない。