Friday, August 31, 2012

慰安婦強制連行の犯罪(静岡事件・大審院判決)


静岡事件・大審判院判決

 

 

 「満州」の「カフェー」で働かせるために「女給」が必要と考えて、静岡県内で女性をだまして、「満州」へ連れて行った被告人らに未成年国外移送目的誘拐罪が成立すると認めた大審院判決が存在することが明らかになった。朝鮮人強制連行真相調査団の調査による。

 

 国外誘拐移送同未遂国外誘拐被告事件(昭和十年(れ)第四九二号 同年六月六日第二刑事部判決 棄却)『大審院蔵版 大審院刑事判例集 第十四巻』(法曹会発行)

 

*以下、引用に際して旧字を新字に改める。

 

1 大審院判決の概要

 

<判決要旨>

国外移送ノ目的ヲ以テ未成年者ヲ誘惑シ自己ノ支配内ニ移シタル以上ハ其ノ監督権者ヲ誘惑セサルモ未成年者ニ対スル国外誘拐罪成ス

 

<主文>

本件上告ハ孰レモ之ヲ棄却ス

 

<理由>[要旨]

国外移送ノ目的ヲ以テ未成年者ヲ誘拐スル罪ハ国外移送ノ目的ヲ以テ未成年者又ハ其ノ監督権者ヲ誘惑シ其ノ未成年者ヲ自己ノ支配内ニ移スニ因リテ成立スルモノトス故ニ原判示事実ノ如ク国外移送ノ目的ヲ以テ未成年者ヲ誘惑シテ之ヲ自己ノ支配内ニ移シ又其ノ被誘拐者ヲ国外ニ移送シ又ハ移送セントシタル以上刑法二百二十六条第一項第二項並ニ第二項ノ未遂罪トナルヘク所論ノ如ク更ニ進ンテ監督権者ニ対スル欺罔誘惑ノ行為アルコトヲ要スルモノニ非ス論旨ハ理由ナシ

 

それでは、事実はどのようなものか。第二審である東京控訴院が認定したのは3つの事実である。概要は次のようなものである(なお、第一審は静岡地裁沼津支部である。それゆえ、ここでは静岡事件と略称する)。

 

<第一の事実>

被告人Aの弟Bは、昭和8(1933)年2月、「満州」視察の際に、日本帝国軍駐在を知り、軍人を顧客とする「カフェー」を経営すれば巨額の利益を収得できると考えて、C及び被告人Dに告げて、「カフェー」を経営することとし、同年3月、被告人Dに「女給」数名を雇うよう依頼し、被告人Dは被告人Aと協力して「女給」の雇入れに奔走し、被告人Eや原審被告人Fにも「女給」の周旋を依頼したところ、

 

 同年3月、EはFと共謀の上、静岡県出方郡中郷村の飲食店G方に立ち至り、そこに酌婦奉公していたHの次女I(当時19歳)に対し、Iが未成年であることを知りながら、Aらが開業する「カフェー」に「女給」として赴くよう慫慂し、「満州に行けば借金はすぐ抜け、一年の働けば札束を背負って帰国できる。帰るときには飛行機で帰れる」等種々甘言をもって誘惑し、Iに渡満を承諾させたうえ、Iの姉Jに、EがIを身請けして夫婦となると欺いて、Iを身請けして、3月26日頃、Aに引き渡し、EはFと共同してIを帝国外である「満州」に移送する目的をもって誘拐した。

 

<第二の事実>

被告人Aは、沼津市内の自宅において、FからIを引き取り、F及びEから、同女を甘言を用いて誘惑して「満州」行きを承諾させて誘拐したこと、FらがJらに、EがIを身請けすると詐り、欺罔したこと、Iは未成年であり、渡満について親権者である実父の承諾のないことを知っていたにもかかわらず、3月28日、Iを被告人Dに引き渡し、Iほか数名の「女給」を「満州」に連行して、被誘拐者であるIを帝国外に移送した。

 

<第三の事実>

被告人Dは、Iほか数名の「女給」を伴って渡満したが、さらにBらが開業する料理店の「女給」を雇入れる必要を感じ、同年5月、帰国の上、原審相被告人K等に対し事情を告げて「女給」の周旋を依頼したところ、Kはこれを承諾し、原審相被告人Lと共謀の上、静岡県出方郡土肥村の料理店M方に至り、そこの酌婦であるN(当時16歳)に対し、同女が未成年であることを知りながら、「満州」移送の目的を秘し、Nの実父から料理店の住み替えを依頼されてきたと偽り、KとLがNを欺罔して住み替えを承諾させたうえ、同女を誘拐し、同女の無知に乗じて、神戸の少し先の大連に行くと詐り、Nを被告人Dに引き渡し、次いで、K単独で沼津市の料理店O方の酌婦であったP(当時27歳)が生来いささか「愚鈍」であるのに乗じて、「満州」移送の目的を秘し、料理店住み替えを慫慂して欺き、Pを欺罔して住み替えを承諾させて、誘拐し、同女が無知で大連がどこにあるか知らないのに乗じて、あまり遠くない大連に行くと詐り、Pを被告人Dに引き渡したが、Dは、NP両名がいずれも虚言を弄して連れ出されたもので、渡満について十分な承諾をしていないことを知りながら、またNは未成年であり、渡満について親権者の承諾のないことを知りながら、被誘拐者である両名を誘致し、帝国外である「満州」に移送しようと準備中に警察署の探知するところとなり、その目的を遂げなかった。

 

2 解説

 

1)   最初の判決

 

 本判決は、国外移送目的誘拐罪の成立を認めたもっとも初期の判決であり、大審院判決としては、これまで知られていた長崎事件判決よりも2年早く出されたものであり、最初の判決と思われる。

 

 長崎事件判決について


 

 

 なお、本判決には「慰安所」という言葉は使われていない。軍人を顧客とする「カフェー」のための「女給」という表現である。

 

2)   略取誘拐罪――「強制連行」とは何か

 

本判決は、甘言や虚言をもって女性を誘惑して連れ出した被告人らの行為が誘拐罪に当たると認定している。

 

該当条文は次のように規定する。

<二二六条 帝国外ニ移送スル目的ヲ以テ人ヲ略取又ハ誘拐シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ処ス帝国外ニ移送スル目的ヲ以テ人ヲ売買シ又ハ被拐取者若クハ被売者ヲ帝国外ニ移送シタル者亦同シ>

 

「略取又ハ誘拐」とあるが、「略取」とは暴行・脅迫を手段とし、「誘拐」とは欺罔・誘惑等を手段として、本人の意思に反して連れ出すことである

 

「誘拐罪における『欺罔』とは、虚偽の事実をもって相手方を錯誤に陥れることをいい、『誘惑』とは、欺罔の程度に至らないが、甘言をもって相手方を動かし、その判断を誤らせることをいうとするのが多数説である」(『大刑法コンメンタール刑法八巻』六〇三頁)。

 

物理的身体的に実力を用いて連れ出すのは「略取」、言葉巧みにだまして連れ出すのは「誘拐」である。いずれかに当たれば「強制連行」と言える。

 

*なお、国際法の場合には、奴隷条約や、人道に対する罪としての強制移送に当たるか否かが問題となる。この点については、