Monday, August 13, 2012

拷問禁止委員会が日本に勧告

法の廃墟(14)

拷問禁止委員会が日本に勧告



『無罪!』2007年6月号





落第レポート



 ジュネーヴで開催された拷問禁止委員会が、日本政府報告書(CAT/C/JPN/1)の審査を踏まえて、五月一八日、日本政府に対して数々の勧告を行った。

 一九八五年に国連総会で採択された拷問等禁止条約第一九条は、締約国に対して、効力発生後一年以内に第一回報告を提出することを義務づけている。政府報告書は拷問禁止委員会(CAT)において検討される。委員会は必要に応じて意見を公表することになっていて「結論と勧告」と題されている。日本政府は一九九九年六月に条約を締結し、同年七月二九日に効力が発生した。条約採択から一四年も遅れたことで内外のNGOから批判を受けたが、報告提出も遅れた。締切りは二〇〇〇年七月であったが、五年も遅れて、ようやく二〇〇五年一二月、日本政府は第一回政府報告を提出した(前田朗・本誌二〇〇七年五月号参照)。

 日本政府報告の検討は五月九日・一〇日に行われた。その結果、拷問禁止委員会が採択したのが「拷問禁止委員会の結論と勧告:日本」(二〇〇七年五月一八日、CAT/C/JPN/CO/1)である。以下にその概要を紹介したい。

 委員会は冒頭で、報告書が五年も遅延したことは遺憾であるとしたうえで、日本政府報告書には第一回報告書に盛り込まれるべき内容が十分に盛り込まれていない、特に拷問等禁止条約の諸規定が日本においていかに適用されているかの情報が欠落している、報告書には法律の条文が羅列されているだけで、諸権利がどのように履行されているのか分析していないし、実例や統計も記載されていないと指摘している。

 委員会の指摘は、端的に言って「日本政府報告書は落第レポートに過ぎない」という意味であろう。今回の報告書に限られたことではなく、市民的政治的権利に関する国際規約に基づく報告書、子どもの権利条約に基づく報告書、人種差別撤廃条約に基づく報告書の際にも指摘されてきた。各委員会から繰り返し指摘されてきたから、普通ならばそれを教訓として、実質的内容のある報告書を提出しそうなものだが、日本政府は反省や教訓という言葉を知らないかのようだ。



結論と勧告



 委員会は多くの勧告を行っている。順に見ていこう。

              拷問の定義――委員会は、日本刑法には条約第一条の意味における拷問の処罰規定が十分に含まれていないと指摘している。条約第一条には「心理的拷問」が含まれているのに、日本刑法では心理的拷問は処罰されない。日本刑法では一部の特別公務員などの拷問が処罰されるだけで、すべての公務・公的資格で行われた拷問、公務員の同意や黙認のもとで行われた拷問が取り上げられていない。日本政府は条約第一条における拷問の定義を刑法に取り入れるべきである。

              条約の国内適用可能性――日本政府報告書には、条約が国内裁判所において適用されるか否か、条約が戦時にも適用されるかについての情報が欠落している。関連情報の提供を求める。

              時効――委員会は、日本において拷問や虐待が時効にかかるか否かに関心を有している。特に第二次大戦期の軍隊性奴隷制の被害者(いわゆる「慰安婦」)の提訴が時効を理由に棄却されたことは遺憾である。日本政府は時効規定を見直して、条約のもとでの責務を果たすべきである。

司法の独立――司法の独立が不十分であるので、改善に必要な措置を採るべきである。

不送還――日本の法律と実務は条約第三条に合致していない。入管法には拷問を受ける恐れのある国への送還を禁止する規定がない。難民認定審査の独立機関が存在しない。入管施設における暴力、虐待、セクシュアル・ハラスメントが膨大に報告されている。

代用監獄――委員会は、代用監獄の利用、被拘禁者の手続保障の不十分さ、権利侵害の増大や、無罪の推定、黙秘権、防御権が尊重されていないことを指摘している。拘置所よりも留置場収容が不均衡に多い、捜査と留置の分離が不十分である、留置場における適切な医療がない、起訴前拘禁が長い、起訴前拘禁に対する司法的統制が効果的でない、起訴前保釈制度がないなど、日本の刑事司法が抱える数々の病理の改善を勧告している。

尋問規則と自白――委員会は、自白に基づいた有罪判決が多い、起訴前拘禁への効果的な司法統制がない、取調べ時間に制約がないと指摘し、改善を勧告している。

刑事施設の拘禁条件――委員会は、刑事施設の過剰拘禁や、被収容者に対する医療が不十分であると指摘している。

厳正独居――委員会は、厳正独居が相変わらず用いられている、その使用期間の規制がない、一〇年を超える厳正独居がある(最長は四二年)、厳正独居が懲罰として利用されていることなどを指摘している。

死刑――委員会は、死刑確定者に関する国内法の諸規定、特に厳正独居や、死刑執行の秘密主義と恣意性を指摘して、国際最低基準を遵守するよう求めている。

迅速公平な捜査、不服申立権――委員会は、被収容者の不服申立に関して、留置場収容者には不服申立制度がない、刑事施設審査委員会がない、不服申立権の法規定がないことなどを指摘している。

人権教育と訓練――委員会は、捜査官の取調べについて条約に違反する内容の訓練マニュアルがあるとの申立があると指摘し、女性や子どもの権利など人権教育を系統的に行うよう求めている。

補償とリハビリテーション――委員会は、拷問被害者が適切な補償を受けられないことに関心を持ち、関連情報の提供を求めている。特に、軍隊性奴隷制生存者などの性暴力被害者の救済が不適切であるとし、国家による事実の否認、事実の開示の隠蔽、拷問行為の責任者の不訴追、被害者への適切なリハビリテーションがないことが、虐待と心的外傷を継続させているとして、改善を求めている。

ジェンダーに基づいた暴力と人身売買――委員会は、収容された女性や子どもに対する暴力、法執行官による性暴力の訴えが続いている、国境を越えた人身売買が深刻な問題となっている、軍事基地に駐留する外国軍隊による性暴力事犯の予防・訴追の効果的な措置がないことに関心を示している。

精神障害を持った個人――委員会は、精神病院における拘禁、司法的統制の欠如も指摘している。

最後に、委員会は、日本政府に対して、条約第二二条の宣言(個人被害者による通報制度の受入れ)、条約選択議定書批准(拷問予防委員会の受入れ)、国際刑事裁判所規程への加入を要請している。委員会の「結論と勧告」を国内で周知することも要請されている。第二回報告書の提出締切りは二〇一一年六月三〇日である。