Friday, September 14, 2012

朝鮮学校の高校無償化除外問題(一)


雑誌「統一評論」54号(2011年月)

ヒューマン・ライツ再入門30

朝鮮学校の高校無償化除外問題(一)

                    

 

一 はじめに

 

 「高木文部科学相は二五日午前の閣議後の記者会見で、北朝鮮による韓国砲撃を受けて審査手続きがとまっている朝鮮学校への高校授業料無償化適用について、『審査に要する期間を考えると、年度内に指定するかどうかを判断することは困難になった』と述べ、年度内の適用断念を表明した。/ただ、四月以降に適用を決めた場合に二〇一〇年度分の就学支援金をさかのぼって支給するかどうかについては、『可能かどうかも検討しなければならない』と含みを持たせた。」(『読売新聞』オンライン二〇一一年三月二五日)

 朝鮮高級学校の高校無償化からの除外問題は一年以上経過したが解決に至らず、二〇一〇年度の卒業式を終えてしまった。日本政府は、外交や政治問題を教育の場に持ち込んで、朝鮮学校に対する差別政策を推進してきた。一部の政治家による朝鮮学校排除ではなく、首相の直接指示による朝鮮学校排除が現実化してきた。そして、本年三月二五日、差別の固定化が完了した。

 また、大阪府、神奈川県、宮城県、埼玉県など各地の自治体における状況も変動し続けている。橋下徹大阪府知事のパフォーマンスに始まった朝鮮学校つぶしが、神奈川県では松沢知事の判断で助成金継続となったが、東日本大震災の混乱の中、宮城県や埼玉県などで新たな助成金否定の動きが出ている。

 問題が、教育への不当な政治介入であり、しかも朝鮮学校に対する差別であることから、日本社会では早いうちから批判の声が高まっていた。新聞の社説においても、一部を除いて、政府方針に疑問を示すものが少なくなかった。二〇一〇年の人種差別撤廃委員会や子どもの権利委員会での審議など、国際社会からの批判もあり、問題点が鮮明になっていった。それにもかかわらず、朝鮮学校排除の合唱を続ける一部の政治家、メディア、運動家は相変わらず差別の煽動に熱中している。

 三月二九日、これまでこの問題に取り組んできた「『高校無償化』からの朝鮮学校排除に反対する連絡会」は、内閣府と文科省に対して、朝鮮学校への無償化適用を求める要請行動った

 あらためて問題の所在を確認し、今後の検討と運動につなげたい。

 

二 問題の発端と経過

      ――高校無償化法の成立と中井大臣発言

 

 民主党が二〇〇九年の政権公約(マニフェスト)に掲げた高校授業料無償化法が二〇一〇年三月三一日の参院本会議で、与党(民主党)と公明、共産両野党の賛成多数で可決成立した。自民党は反対した。本法は四から施行され

対象は、高校高等専門学校専修学校、一部の各種学校などである。公立高と公立の中等教育学校後期課程、特別支援学校高等部については、国が生徒人当たりの授業料相当額(年一一八八〇〇円)を基準にして、地方自治体に授業料収入相当額を交付する。これによって授業料徴収なくなった

各種学校である外国人学校については、文部科学省は、(一)本国が日本の高校と同等であることを認めている、(二)国際的な評価機関で認定を受けているのいずれかを満たせば対象とする方針だったそのための細かな基準は、省令で定めることとされていた

 ところが、閣内から日本人拉致問題に絡めて、朝鮮学校を無償化の対象外とするよう求める声が出た。中井洽拉致問題担当大臣(当時。以下同じ)は「北朝鮮に制裁をかけていることを十分考慮してほしい」と述べて、川端達夫文部科学相に朝鮮学校の適用除外を要請したという
 文科省は「朝鮮学校は、多くの大学が卒業生の入学を認めている」として、専門家の検討会を設置して検討するとした

 この問題では、文部科学省ではなく、政治家が先頭に立って差別政策を進めた。従来、国立大学受験資格問題でも、朝鮮学校への寄付金控除問題でも、文部科学省自身が、(他省庁とともに)朝鮮学校を差別する姿勢を示してきた。しかし、この問題では、文部科学省はむしろ、学校の種類で支援の有無を区別すべきではないと、日本学校との同等の取り扱いを示していた。外国人学校を別扱いすることに道理がないことを当局も認めざるを得なかったからである。

ところが、中井大臣発言を受けて、鳩山由起夫首相は国会内で記者団に対し、「中井氏の考え方というのは、ひとつあるなと思う。そのような方向性になりそうだというふうには聞いている」と語った。また、平野博文官房長官も、朝鮮学校が「無償化にふさわしいカリキュラムかどうか」と述べた。

こうして朝鮮学校の高校無償化からの排除問題が一気に政治問題、社会問題となった。

 中井発言や鳩山発言が報じられると、多くのメディアがこれを大きく取り上げ、疑問を呈した。一部に朝鮮学校排除を求めるメディアもあったが、多くのメディアは差別に疑問を呈する穏当な姿勢を示した。

例えば、『沖縄タイムス』は、二月二七日に、「人種差別として国際社会をがっかりさせそうだ」、「国連人権差別撤廃委員会が年ぶりに行っている対日審査会合で二五日、この問題が取り上げられた。北朝鮮との外交関係を理由に差別的措置がとられようとしている、という問題認識が委員から指摘された」、「審査員は『なぜ北朝鮮がやっていることで、子どもたちが責められるのか』と問うた。審査会は朝鮮学校が公的援助を受けられない現状を問題視した。それは人種差別とみなされる」と報じた上で、「教育と外交問題を同一視すべきではない」とし、「そこで学び、青春を過ごしている若者たちは何も違わないはずだ」と締めくくった。

人権問題に関わってきた多くのNGOや、教育関係者もすばやく立ち上がって声をあげた。

 もっとも、ネット上では、北朝鮮叩きの延長で、過激で異常な差別発言が飛び交い、一部のメディアや評論家が差別を煽動し続けている。

 

三 法的問題点

 

 法的問題点は、当初から明確に指摘され、検討されていた。基本的な論点だけを確認しておこう。

 第一に、政権の政策自体との矛盾である。

民主党はその「教育政策の集大成」である「日本国教育基本法案」において「国民と限定するのではなく」、「何人にも『学ぶ権利』を保障」すると明示してい二〇〇九年の衆院選挙を前に出された民主党政策集インデックスにも明示されてい。政策集インデックスは、国際社会権規約第一三条についても触れていた。第一三条は「締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める」と定めている。国民だけではなく外国人の子どもたちの学ぶ権利の保障を謳ったにもかかわらず、それが外国との政治的関係によって左右されるということは「権利」というものの性質から、考えられないことであ
 第二に、在日朝鮮人も納税の義務を負っている。

高校無償化施策の実施に伴い、特定扶養親族控除の廃止が予定されていため、朝鮮学校に対し高校無償化措置(就学支援金)が適用されないとなると朝鮮学校生徒保護者の負担は却って大きくなり、差別拡大につながった。

一部メディアは「国民の血税」を朝鮮学校に渡すのかどうかなどと主張しているが、日本国が徴収している税金に「国民税」はない。外国人からも各種の税金を徴収している。在日朝鮮人から一方的に税金を取りながら、朝鮮人のための施策には使われてこなかった。
 第三に、国際自由権規約に基づく自由権規約委員会が、二〇〇八年の日本政府報告書審査の結果出した最終見解において、「朝鮮学校に対する国の補助金が通常の学校に対するものよりも相当低く、民間の寄付金に強く依存しているが、私立の日本人学校やインターナショナル・スクールとは異なり、これらの学校が免税対象外又は税金控除対象外であること、また、朝鮮学校の卒業証書がそのまま大学入学資格として認められないことを懸念する(第二六条及び第二七条)締約国は、国による補助金を増大し、朝鮮学校への寄付を行う者に他の学校に寄付を行う者と同じ財政的な利益を与えることによって、朝鮮学校への適切な資金援助を確保し、朝鮮学校の卒業証書を直接大学入学資格として認めるべきである(外務省ホームページより抜粋)と勧告し。同様に、国際社会権規約に基づく社会権委員会、子どもの権利条約に基づく子どもの権利委員会、人種差別撤廃条約に基づく人種差別撤廃委員会においても朝鮮学校への各種の差別是正を求める勧告されきた
 この点について、日本弁護士連合会(日弁連)も、一九九八年と二〇〇八年の二度にわたり、朝鮮学校などへの助成金が国からは皆無であり、各地方自治体からは僅かに出ているものの日本の公立私立学校と比べて極めて少額に過ぎないことについて「重大な人権侵害」「学習権の侵害」だとして日本政府へ是正勧告を出している。
 第四に、基準の客観性である。

文部科学大臣は専修学校設置基準において「授業時数は、学科ごとに、一年間にわたり八百時間以上とする」(第条)、「一の授業科目について同時に授業を行う生徒数は、四十人以下とする。ただし、特別の事由があり、かつ、教育上支障のない場合は、この限りでない」(第条)とするなど外形基準を用いている。専修学校卒業生の大学入学資格においても修業年限三年以上で卒業に必要な総授業時数が二五九〇単位時間以上、普通科目の総授業時数は四二単位授業時数以上などの形式的・外形的な要件をみたせば学校単位で大学入学資格が認められるとしてきた。このように何も国際評価機関や本国の認定だけに依拠しなくても一条校(学校教育法第一条に基づく学校)と同等の課程を有するものと認める線引きは可能である。今回も、文部科学省は、授業内容に関わらず一律の客観的基準で判断するとしていた。

 

四 朝鮮高級学校教員・生徒の取組み

 

  在日本朝鮮人教職員同盟中央本部は、繰り返し平等適用を求める意見、声明を発して、日本政府や社会に訴え続けた。

 基本的内容は、第一に、「高校無償化法案の趣旨は差別のない後期中等教育の機会保障にある」、第二に、在日朝鮮人納税義務を果たしていること、第三に、「各種学校の認可のもと、一条校と同等の教育を行っている」、第四に、「大学受験資格、体育大会公式参加など事実上高校として認められている」ことである。

 朝鮮学校生徒たちも、街頭に出て、あるいは集会に参加して、自らの思いを語り、日本社会に訴えた。広島朝鮮高級学校生徒の詩集は大きな反響を呼んだ。朝鮮学校教員や生徒による取組みは本誌でも報告されてきた。

 

五 日弁連の取組み

 

二〇一〇年三月五日、日本弁護士連合会は宮﨑誠会長声明を公表した。

今国会に提出された、いわゆる高校無償化法案(「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律案」)について、朝鮮民主主義人民共和国に対する制裁措置の実施等を理由に、朝鮮学校を対象校から外すか否かが、政府内で検討されている。しかし、本法案の趣旨は、『高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与する』(法律案の理由)ことにある。教育を受ける機会は、政治・外交問題に左右されてはならず、朝鮮学校に通う子どもたちについても変わることなく保障されるべきものである。また、朝鮮学校については、教育課程等の確認ができないとの考え方も報道されているが、朝鮮学校の教育課程に関する情報は、各種学校の認可を受ける際に必要に応じて提出され、朝鮮学校自らがホームページ等でも公開しているのであるから容易に調査可能であり、現に、ほとんどの大学は朝鮮学校卒業生に入学資格を認めている。朝鮮学校に通う子どもたちが本法案の対象外とされ、高等学校、専修学校、インターナショナル・スクール、中華学校等の生徒と異なる不利益な取扱いを受けることは、中等教育や民族教育を受ける権利にかかわる法の下の平等(憲法第一四条)に反するおそれが高く、さらには、国際人権(自由権・社会権)規約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約が禁止する差別にあたるものであって、この差別を正当化する根拠はない。当連合会は、高校無償化法案の適用において朝鮮学校が不当に排除されることのないように強く求めるものである。

以上が日弁連会長声明である。法の趣旨、朝鮮学校の教育課程の客観的判断、憲法、そして国際人権法に照らして判断を行っている。

 

六 市民運動の取組み

 

 二〇一〇年二月から三月にかけて、全国各地で市民による取組みが行われた。政府、国会議員への要請行動、講演会、市民集会、街頭演説など多彩な取組みが広がった。冒頭に紹介した「『高校無償化』からの朝鮮学校排除に反対する連絡会」は、東京を中心とした市民のネットワークだが、そのほかにも名古屋、大阪、福岡をはじめ各地で取組みが続けられ、実に多くの市民団体が抗議集会を開催し、声明を発し、朝鮮学校支援の輪を広げた。ごく一部だけ紹介しておこう。

 一〇年三月八日、「日朝懇談会(愛媛)」と「自主・平和・民主のための広範な国民連合・愛媛」は次の声明を出した。

そもそも朝鮮国籍の方々が多数日本で生活しているのは、戦前の強制連行、強制労働に起因するもので、ひとえに日本政府の責任で生じた事態であり、その意に反して日本に連行された朝鮮の方々の本意ではない。その在日の方々が民族の誇りと自尊心を語り伝えるために、戦後、私費で朝鮮語の学習を主とする民族教育の場として朝鮮学校を日本各地に創っていったのが始まりだと聞いている。戦前の植民地支配を反省、謝罪、補償し、ピョンヤン宣言に基づいて国交正常化の努力をするのが政府の責務であり、民族教育を温かく見守るのが当然である。それを怠ってきた責任を棚上げし、善隣友好の時流に逆行し、『敵視』『危険視』する世論を煽ることに断固反対する。在日の方々の人権と誇りを傷つけ、経済的に圧迫することに反対する。政府は国民の期待を裏切り、本質的に自民党時代と変わらぬこの妄動を直ちに取り止めねばならない。日朝友好、日朝国交正常化を進めるよう要求する。われわれは、今後、一層、日朝友好、日朝国交正常化のために、心ある多くの広範な国民各層、県民各層とともに奮闘する。以上、声明する」。

 一〇年三月二五日、自由人権協会も声明を出した。

 「高校無償化法案は、日本が批准した社会権規約一三()に定める『無償教育の漸進的な導入により』、『すべての者に対して〔中等教育の〕機会を与えること』を実現しようとするものであり、また、『教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与すること』(法案)を目的としている。そして、同法案に基づく就学支援金の受給権者は『生徒又は学生』(法案項)であり、学校は、事務処理の便宜上、それを代理受領するにすぎない。それにもかかわらず朝鮮学校をこの制度の対象から除外するならば、それによる経済的不利益は、朝鮮学校に通う生徒及びその保護者に生じることになる。これが本制度の趣旨を没却するものであることは明らかである。また、外国人学校は外国籍・民族的マイノリティの子どもの学習権実現に不可欠の存在であり、子どもの権利条約三〇条、自由権規約二七条、及び憲法二三条及び二六条により、教育の自由(教育権)は外国人学校にも保障されている。そして、朝鮮学校に通う生徒らには、日本人の子ども及び他の外国籍の子ども達と同様、学習権(教育を受ける権利)が保障されており、この学習権の内容として、その属する民族の言語・文化・歴史・地理等に関する民族教育を受ける権利も保障されているものである。朝鮮学校を高校無償化制度の対象から恣意的に除外することはもちろん、その教育内容を経済的給付の可否の判断材料にすることは、朝鮮学校に通う子どもの学習権に対する重大な侵害となることは明らかである。また、朝鮮学校のみを不利益に取扱うことは、不合理な差別的取扱として憲法一四条の定める平等原則にも反するおそれが強い。特に、今回の朝鮮学校外しは、日本の私立学校との間だけではなく、等しく各種学校である外国人学校の間にも差別を持ち込むものであって、その点でも違憲の疑いは大きいものである」。

また、一〇年七月二九日、「朝鮮史研究会」は次の声明を出した。

わたしたちは、今回の法令が歴史の積み重ねの上にあると考えます。朝鮮学校は、日本の敗戦により植民地支配から解放された在日朝鮮人が、教育機会を奪われてきた朝鮮語・朝鮮史などを教授しようと設立した民族教育機関を起源としています。しかし、これを危険視した連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)と日本政府は学校の閉鎖を命令し、それに反対する一九四八年の阪神教育闘争を非常事態宣言まで発布して弾圧したのち、翌四九年にはついに閉鎖・改組を強行しました。そこから自主学校などのかたちで徐々に再建されていったものが、現在の朝鮮学校です。その後も、日本政府は一九六五年の日韓条約を契機に、朝鮮学校を各種学校として認めるべきでないとする文部次官通達を発しました。にもかかわらず、各都道府県が朝鮮学校を各種学校として認可してきたことで、この通達は死文化しました。一九七六年に専修学校制度が設けられたときも、外国人学校は除外されました。そして二〇〇二年の日朝首脳会談以降、大学入学資格、税制優遇措置、さらに今回の『高校無償化』において、朝鮮学校は差別的な扱いを受けました。しかし既にほぼ全ての大学が朝鮮学校の大学入学資格を認めてきた、したがって実質的に『高等学校の課程に類する課程』であると認定してきたのが実情であり、今回の法令はそうした歴史の趨勢に反するものです。/中等・高等教育の無償化は、日本国も批准している国際人権規約および子どもの権利条約でうたわれており、今回の『高校無償化』はその実現を目指したものと理解できます。しかし、両条約に民族教育の権利の保障が書きこまれていることも、忘れてはなりません。今年三月の国連・人種差別撤廃委員会では、日本政府に対し朝鮮学校除外を懸念するとの勧告がありました。いま日本政府は、民族教育の保障に向けて新たな一歩を踏み出すのか、逆に新たな排除を生み出すのか、その岐路に立たされているのです」。

以上が朝鮮史研究会声明である。このようにさまざまな市民がそれぞれの立場から差別政策に反対の声をあげた。以上の例はほんの一部を取り上げたに過ぎない。全国各地の市民が声を寄せ合ったことを知ることができる。

なお、詩人の河津聖恵の呼びかけにより、数多くの日本人および在日朝鮮人の詩人たちがこの問題に関連する詩集『朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー』を編み、社会的に大きな話題となったことは、すでに本連載第二五回(本年一月号)でも取り上げた。

 

七 教育者の取組み

 

 一〇年三月二三日、日本高等学校教職員組合は次の声明(談話)を出した。

 「鳩山政権は二〇一〇年度から公立高校授業料の実質無償化と私立高校への就学支援金を実施する方針ですが、朝鮮学校に適用するかどうかの判断は四月以降に先送りしようとしています。無償化が適用されないとすれば、教育の機会均等の保障に反し、民族・国籍により差別し排除するという問題で政府の姿勢が根本から問われます。/高校授業料無償化は教育を受ける権利を社会的に保障する立場から実施されるものであり、政治的理由から特定の学校を排除することはあってはならないことです。/朝鮮学校の教育課程が『高校に類する』ことは、国公立大学を含む大半の大学が卒業生の受験や入学を認めていることをみても明白です。朝鮮学校は、高校野球やラクビー、高校サッカー選手権にも参加が認められ出場しています。朝鮮学校を高校授業料無償化から除外することはまったく道理がありません。/重大なことは、この差別問題が国内の教育問題にとどまらず、世界から注目される国際問題に発展していることです。日本は、『人種差別撤廃条約』を一九九五年に批准しており、国や地方自治体などのすべての公共機関が、人種や民族などで差別する行為を行ったり、差別を扇動、助長したりすることは許されません。国際人権A規約第二条及び子どもの権利条約第二条は、人権が人種・性・言語・宗教・意見・国民的出身などによるいかなる差別もなしに保障されると規定しています。そのうえで、規約第一三条と権利条約二三条は、教育を受ける権利を規定しています。/日本も批准したこれらの規約・条約によって、国籍や出身を問わずすべての子どもに教育を受ける権利を保障するのは当然のことです。/国連の人種差別撤廃委員会は三月一六日に公表した報告書において、高校の授業料を実質的に無償化する新制度の対象から、朝鮮学校を除外するよう意見が出ていることに対し、『子どもの教育に差別的な影響を与える行為』として、懸念を表明しました。/高校授業料無償化の対象から朝鮮学校を除外するなどということは、国際ルールに照らして断じて許されないことは明らかです。/鳩山政権が、高校授業料の無償化にふみだしたことは、教育費の負担軽減を求める国民の世論と運動の反映であり、教育費の無償化という世界の流れにそった重要な一歩です。/日高教は、鳩山政権の高校授業料無償化から朝鮮学校を除外しようとしていることに強く抗議するとともに、一刻も早く朝鮮学校へ適用することを強く求めるものです」。

また、大学関係者有志の声明や要請行動も注目を集めた。呼びかけ人は、板垣竜太(同志社大学)、市野川容孝(東京大学)、鵜飼哲(一橋大学)、内海愛子(早稲田大学)、宇野田尚哉(大阪大学)、河かおる(滋賀県立大学)、駒込武(京都大学)、坂元ひろ子(一橋大学)、高橋哲哉(東京大学)、外村大(東京大学)、冨山一郎(大阪大学)、仲尾宏(京都造形芸術大学)、中野敏男(東京外国語大学)、藤永壮(大阪産業大学)、布袋敏博(早稲田大学)、水野直樹(京都大学)、三宅晶子(千葉大学)、米田俊彦(お茶の水女子大学)であり、賛同者は一〇一六名(二〇一〇年三月三日時点)であった。

一〇年三月に続いて、一一年三月にも声明が出された。

「『全ての意志ある高校生等が、安心して勉学に打ち込める社会をつくる』ことを目的に設けられた公立高校無償化・高等学校等就学支援金制度(以下『高校無償化』制度)が始まって間もなく一年を迎えようとしていますが、いまだ朝鮮学校の生徒には就学支援金が支給されていません。大学はいま入試シーズン真っ只中ですが、公私立の高等学校、高等専修学校、朝鮮学校以外の外国人学校の生徒らは同制度の恩恵を受ける一方で、朝鮮学校の生徒のみ『安心して勉学に打ち込め』ない状態で受験せざるを得ないという露骨な格差が生じています。わたしたちはこの異常な事態を決して容認することができません。/政府は、『高校無償化』制度の朝鮮学校への適用については、『教育上の観点から客観的に判断するものであって、外交上の判断などにより判断すべきものではない』と国会の場などで明言してきました。ところが、幾度も適用の判断を先送りにしたあげく、昨年一一月二三日の延坪島砲撃を受けて、『北東アジア地域全体の平和と安全』なる観点から手続きを『停止』しました。これは誰が見ても矛盾であり、外交問題を朝鮮学校への就学支援金支給に転嫁する措置に他なりません。そうした揺れ動く政府の対応の影響をも受けながら、大阪府や東京都をはじめとする複数の都道府県では、長年にわたって朝鮮学校に支給してきた教育助成の『中断』『留保』などの措置をとるにいたっています。さらに、今年から特定扶養控除の減額がはじまり、高校生相当の年齢の子どもをもつ保護者は増税となります。つまり、朝鮮学校に子どもを通わせる保護者には、幾重もの不利益が課せられることになります。/二〇世紀の日本は朝鮮の民族教育を弾圧してきました。植民地支配下での民族教育の監視と弾圧、日本の敗戦後に広まった朝鮮人学校の強制閉鎖措置、その後自主的に再建された朝鮮学校にも様々な排除の政策がとられてきました。昨年来の政府・地方自治体の一連の措置は、まさにその歴史に連なるものであるといわざるを得ません。/わたしたちは、四月に遡って朝鮮学校に就学支援金制度を即時適用することを、強く要求します」。