Saturday, September 08, 2012

池尾靖志『自治体の平和力』


池尾靖志『自治体の平和力』

https://iwanami.co.jp/moreinfo/2708480/top.html

 

平和学研究者による「自治体の平和力」論で、ブックレットのためコンパクトながら、重要事項をかなり広く取り上げ、手際よくまとめている。

 冒頭の一文が、本書のスタンスが明瞭に示している。

 <自分たちのことは、自分たちで決める。これを「自治」という。私たちは、自分たちのクラス地域の自治を確立していくことによって、自分たちの力で平和を築くことができる。私たちの社会のありようを、他律的に決められるのではなく、自分たちの暮らす社会のことは自分たちで決めるという意思があってこそ、自治は成り立つ。>

 本書は次のような構成である。

 1 自治と平和の深い関係

2 「国策」に抵抗する自治体

3 平和政策は政府の「専管事項」か

 4 自治体が平和のためにできること

 5 沖縄に見る民衆と自治体のパワー

 6 自治体の平和政策の限界

7 自治体の平和政策が世界を変える

池尾は、平和学者ヨハン・ガルトゥングの平和概念を出発点として、状態としての平和を「どの視点から考えるのか」と問う。日本政府が言う「平和」と、沖縄の人々が考える「平和」とが、あまりにかけ離れているからだ。「自治体の平和力」の立場から、住民の福祉を守る自治体が平和主義に立脚すれば、政府の施策に抵抗せざるを得なくなることを、確認している。米軍基地や原発をめぐる政府と自治体の「協力」と「抵抗」がわかりやすく描かれている。平和市長会議、非核宣言自治体、平和月間、非核神戸方式、無防備都市宣言、平和条例、平和ミュージアムなどの実践例を紹介している。もちろん、自治体の平和力が容易に実現しているわけではないし、限界があることも示されている。最後に「自治体の平和政策が世界を変える」として、地域から平和を発信することを強調している。論旨に全面的に賛成である。

池尾と私の違いと言えば、私が「平和」を「状態」としてではなく、「権利」として把握していることだ。日本国憲法の平和的生存権や、国連人権理事会で議論されている平和への権利をもとに、「平和への権利を世界に」と主張してきた。もっとも、これは言葉の違いにすぎず、おそらく池尾も「権利としての平和」に賛成してくれると思う。