保阪正康・東郷和彦『日本の領土問題――北方四島、竹島、尖閣諸島』(角川ONEテーマ21)
目次
まえがき なぜ今、領土問題を考えるのか
第1部 外交交渉から見た領土問題(二十五年間の交渉に敗北した北方領土問題、新しい議論が期待される竹島問題、武力衝突の危険をはらむ尖閣諸島問題)
第2部 対談 領土問題を解決に導く発想と手がかり(領土問題を考える前提、現実的対応が求められる北方領土、日韓共存、交流の道を探る竹島、抑止力と対話が必要な尖閣諸島)
あとがき 領土をどう考えるか
ノンフィクション作家・保阪正康と、元外交官で長年北方領土問題を担当した京都産業大学教授の東郷和彦による新書である。
新書1冊で3つの領土問題を取り上げているので、それぞれについての詳細な検討はなされていない。すべて日本の領土であるという前提を設定し、領土問題として議論されるようになってきた背景、議論の経過の要点の整理と、東郷の現場体験をもとにした立論、そして外交交渉による解決のための模索がなされている。「今、すぐに対処しないとあの領土は永遠に戻ってこない」と危機をあおりながら、他方で冷静な議論が必要と主張してみせる。
特に北方領土問題は東郷が担当しただけあって、思い入れのほどが伝わってくる。冷静に、と言いながら、実は感情論も交じっている。それは欠点ではなく、むしろ「外交敗北」を正直に認める本書の意義は高い。北方領土交渉における日本側の失敗を列挙して、これだけ失敗すればもうおしまいだということも明らかにしつつ、それでも機会が全く失われたわけではないとして、次の日ロ交渉にいかに臨むべきか、外交の知恵の必要性が求められる。
尖閣諸島についても、菅内閣時の中国漁船事件への対処の誤りを的確に指摘している。これによって事態をこじらせ、中国側の姿勢が変化してしまったことの意味を考えるスタイルになっている。本書は12年2月に出版されているが、著者の危惧は、まさに12年夏に明瞭に現出してしまう。「国有化」問題がふたたび中国を刺激して、反日事件が起きる一方、日本側にも異様なナショナリズムが浸透し、差別意識むき出しの世論が蔓延している。
歴史的事実に基づき国際法に照らして判断すること、そして、領土問題を単なる対立に終わらせずに、領土交渉を通じて双方の理解を深め、将来展望をもてるような議論をすべきことを説いている点が、本書の最大の特徴と言ってよいだろう。
もっとも、事実に基づいて、と言いながら、明らかな虚偽に基づいた主張も忍び込ませている。一例だけあげると、次のように書かれている。
「戦後日本側は、多くの人が竹島は日本領だと思いつつも、1954年の韓国の武力による占拠ののちも・・・」(112頁)
これは正しくは次のように書くべきだろう(笑)。
「戦後日本側は、多くの人が竹島にはまったく関心を持たず、その存在も、どこにあるのかも、何一つ知らないままに・・・」