飯島滋明『痴漢えん罪にまきこまれた憲法学者』
<昨年5月3日の「憲法記念日」、憲法学者の著者は「痴漢容疑」(道幅いっぱいに歩行中の女子高生6名の脇を通り抜けた際にぶつかる)で広島県警に任意同行と言われながら30分後いきなり「現行犯逮捕」された。逮捕後3日目の5月5日に釈放され、約三カ月後の8月に不起訴処分となった。>
著者は、早稲田大学大学院を経て、名古屋学院大学で憲法を講じている。随分前だが、研究会で何度かお目にかかったことがある。まじめで優秀な研究者だ。著書に『国会審議から防衛論を読み解く』(前田哲男氏と共著、三省堂)、『9条で政治を変える 平和基本法』(共著、高文研)などがある。
http://www.maruron-ac.net/ngu-u/public/V02010_choord.php?PARAM=94641
冤罪の経過や問題点については、日本民主法律家協会の機関誌「法と民主主義」にもご本人が書いていた。飯島滋明「冤罪と国家権力・メディア」法と民主主義462号(2011年10月)。また、最近は、飯島滋明「原子力発電と日本国憲法」法と民主主義466号(2012年2・3月)も発表している。
不当逮捕に至る経過を述べたうえで、代用監獄のひどさ、有罪と決めつける取調べの様子、勾留質問の内容なども説明されている。著者は、福祉論や平和・防衛問題とともに、もともと憲法における刑事手続きに関する論文を書いていて、冤罪や誤判について研究してきた。それが不当逮捕の被害を受けたのだが、それでも一瞬、やっていないことでも自白しようかと思ったという。家族のことを考えると、否認で頑張るのは大変だと考えたのだ。しかし、接見にきた弁護士の助言で、思いとどまり、やっていないことはやっていないと踏みとどまった。
本書は、その体験をもとに、警察・検察・裁判所とメディアが冤罪を作り出すメカニズムを問い直し、改善策を提言する。すなわち、憲法・刑事訴訟法の理念の徹底、ノルマの廃止、取調べの可視化、代用刑事施設(いわゆる代用監獄)の廃止、証拠の全面開示、身柄拘束場所の改善、警察、検察への個人責任追及制度の確立、検察官上訴の廃止、裁判官の意識改革、判検交流の廃止、弁護士を裁判官に採用すべき、メディアによる犯人視報道の改善、原則匿名報道の採用、法学説の役割などである。法学説の役割というのは、表現の自由をタテに被疑者の実名報道を行って冤罪づくりとプライヴァシー侵害をつづけるメディアを擁護する憲法学者への批判である。
多くの市民に読んでもらいたい一冊だ。
<目次>
はじめに 1
Ⅰ 憲法学者のえん罪体験記
1 逮捕から釈放されるまで
◆逮捕(五月三日)――「任意捜査」がいきなり「現行犯逮捕」に
◆二日目(五月四日)――「あなたが犯人だと思っている」という刑事
◆三日目に釈放(五月五日)――一文無しで検察庁を放り出される
2 激変した生活
◆釈放後の被害の状況
◆警察に対して国家賠償訴訟を考えたが……
◆思い知らされたメディアの体質
Ⅱ 刑事手続に関する憲法上の権利
1 大日本帝国憲法での刑事手続
2 日本国憲法での刑事手続の内容
3 刑事手続の現状 00
4 最近の代表的なえん罪事件
◆布川事件
◆足利事件
◆氷見事件
◆志布志事件
◆大阪地裁所長襲撃事件(通称「オヤジ狩り事件」)
◆引野口事件
◆郵便不正事件
◆競艇選手神戸痴漢冤罪事件
Ⅲ 捜査機関・裁判所・メディアの何が問題か
1 捜査機関に関して
◆身柄拘束に関して
◆取調べ
◆自白
◆警察・検察は事件、証拠をでっち上げる
◆捜査機関の体質
2 裁判所に関して
◆令状主義の形骸化、濫用
◆「無罪推定の原則」の放棄
◆非常識な事実認定
◆「誤判の陰に誤鑑定あり」
3 メディアに関して
◆えん罪の共犯者、メディア
◆犯人視報道
◆実名報道
4 弁護士に関して
◆足利事件一審段階までの弁護活動
◆氷見事件での弁護活動
5 えん罪被害の悲惨さ
◆免田栄さんのえん罪被害の状況
◆生活が破壊される――日弁連のアンケートから
◆その他の事例
Ⅳ えん罪を防ぐには
1 捜査機関が取り組むべきこと
◆憲法・刑事訴訟法の理念の徹底
◆ノルマの廃止
◆取調べの可視化
◆代用刑事施設(いわゆる代用監獄)の廃止
◆証拠の全面開示
◆身柄拘束場所の改善
◆警察、検察への個人責任追及制度の確立
◆検察官上訴の廃止
2 裁判所に関して
◆裁判官の意識改革
◆判検交流の廃止
◆弁護士を裁判官に採用すべき
3 メディアに関して
◆犯人視報道の改善
◆原則匿名報道の採用
◆法学説の役割
4 弁護士に関して
◆なぜ刑事手続で弁護士が重要なのか
◆刑事弁護士支援体制の強化
おわりに