越田清和編『アイヌモシリと平和――<北海道>を平和学する!』(法律文化社)
北海道ピーストレード事務局長である編者による「序章 アイヌモシリから考える平和――『人間の静かな大地』という平和」は、「北海道」を「アイヌモシリ」と呼ぶことによって、和人(日本人)によるアイヌに対する「植民地支配という認識」が可能になるという。アイヌモシリは、北海道、樺太、千島列島全体をさす言葉でもあるが、明治維新の翌年1869年にアイヌモシリに北海道という呼び名をつけて、日本政府がアイヌ民族に何の断りもなく、大地を略奪し、アイヌ民族を弾圧し始めた。1899年には「北海道旧土人保護法」という差別法によって徹底弾圧が完成する。これに対して、編者は脱植民地化を現在の課題として掲げ、国連先住民族権利宣言を一つの手掛かりとする。
本書は13本の論文と、7本のコラムから成る。アイヌ民族共有財産紛争、アイヌモシリの軍事化、北海道の強制労働と朝鮮人強制連行、民衆史掘り起し運動、憲法から見る北海道、女性自衛官人権裁判など、いずれも興味深い論文が続く。執筆者は、さっぽろ自由学校「遊」共同代表、北海道大学准教授、弁護士、世界先住民族ネットワークAINU事務局長、ドキュメンッタリ映画監督、福島の子どもたちを守る会北海道事務局長など。研究者、教育者、平和運動家など幅広い協力の成果である。
井上勝生(北海道大学名誉教授)「近代アイヌ民族のたたかい――十勝アイヌ民族を中心に」は特に興味深い。アイヌ民族共有財産裁判の過程での掘り起し、研究成果であり、和人による一方的な収奪に抗して、アイヌ民族が平和的に抵抗を組織した歴史が明らかにされている。
また、越田清和「アイヌモシリの軍事化――旭川における陸軍基地の創設をめぐって」は、北海道の「軍都」旭川の形成過程――屯田兵の進出、陸軍基地の形成、土地収奪、アイヌ民族の抵抗が、明らかにされている。
表題通り、「アイヌモシリと平和」について多角的に論じた著作であり、これまで類書が存在しない。アイヌモシリ(北海道)への侵略者・屯田兵の子孫の一人としても、本書に学ぶところが多かった。
他方、「ヒロシマと憲法」「オキナワと憲法」「ナガサキから平和学する!」「ピース・ナウ沖縄戦」など、地域で平和づくりの実践を試み、地域から平和を発信する著作が増えている。本書もそうした試みに新しい重要な成果を付け加えるものだ。
ちなみに先住民族の権利については
なお、本書では北方領土問題は扱っていないが、アイヌモシリの「返還」問題にはごくわずかだが触れている。この点に関連して、