和田春樹『領土問題をどう解決するべきか』(平凡社新書)
http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/exec/browse.cgi?code=85_657
ロシア・ソ連史、現代朝鮮研究の碩学による領土問題の新書である。日本と周辺諸国の間の紛争解決、友好促進のための市民運動にも深くかかわり、つねに運動をリードしてきた著者は、問題に誠実に向き合い、さまざまな提言をしてきたことでも知られる。
本書も新書と言う小さな枠の中で、今日の領土問題の解決のために何を考えるべきか、何を成すべきかを論じている。
すでに『北方領土問題を考える』『開国――日露国境交渉』『北方領土問題』を送り出してきた著者だけあって、本書でも北方領土問題の記述が詳しい。領土問題の経過も簡潔に、しかし丁寧にたどられ、日本の戦後政治、戦後体制の見直しとつなげて議論を構築している。
著者は2島返還を基本に、さらに一歩を進める外交交渉を説いている。東郷和彦、佐藤優らによる交渉の線を基本的には支持している。岩下明裕の3島返還論にも言及している。
議論としては、日本政府の「固有の領土」論批判は的確であり、賛成。南千島の解釈を巡る外務省の「詭弁」批判もその通り。
日本政府は、どんな主張をするのであれ、現在の二枚舌外交をやめるべきだ。嘘吐き外交が露見しているのに、いまだに嘘を積み重ねている。最新の、前田朗「領土問題への最低限のスタンス」『月刊マスコミ市民』526号(2012年11月)にも書いた。
他方、竹島と尖閣諸島についての記述はとても少ない。特に尖閣諸島について、著者はあまり勉強してない。井上清を主要文献にしていて、浦野起央も、緑間栄も、尖閣諸島文献資料会も無視している。いくらなんでも、そりゃないだろう、というレベル。本人にとっても恥ずかしいことだし、出版社・編集者の能力が問われる話だ。失格。