Saturday, November 17, 2012

北方領土4島だけでなく、という過激な主張

中名生正昭『尖閣、竹島、北方領土』(南雲堂、2011年)


 

著者は元読売新聞記者で、東京読売サービス取締役企画制作本部長。著書に『常識のウソ』『歴史を見直す東北からの視点』『北方領土の真実』などがある。

 

本書は『北方領土の真実』などをもとに加筆訂正したものということで、実際、竹島や尖閣諸島に関する記述は手薄である。あまり勉強していないので、見るべきところはない。日本に不利な事実についてはほとんど言及せず、ともかく日本領であると唱える「お題目本」。

 

北方領土については、専門研究書がすでに多数あるのと比べると見劣りするとはいえ、一般向けの小さな本としては比較的よくできている。資料として条約も収録されている。

 

平時に締結された千島樺太交換条約を基本として、北方領土4島のみならず、北千島、中千島も本来は日本領なので日ロ共同管理、南樺太も日ロ共同管理、北千島のみロシア領という過激な主張である。

 

現実的な立場は2島返還論であるが、それすら困難なのが現実である。4島返還論、3島返還論もあり、某国共産党のように全千島返還という、これまた過激な主張があるが、本書はそれをはるかに超える。南樺太の面積は、北海道の半分弱に匹敵する。これを日ロ共同管理にという、欲望の塊。

 

とはいえ、著者は、これらを非武装化し、平和地帯にし、共同管理で乱開発を抑制し、環境保護をはかりつつ、日ロ住民が平等に暮らせる土地とすると、独自の提案をする。

 

本書でおもしろいのは、第五部の「日露――北を彩った人たち」で、ベーリング海峡の名前のもとになったベーリング、マミヤ海峡を発見した松田傳十郎と間宮林蔵、占める守島で結婚し常住した別所佐吉などの物語である。もう少し詳しいといいのだが。

 

ただ、千島や樺太が無人の地で、日本人とロシア人がやってきて住んだのだという立場に貫かれている。アイヌ民族を完全に無視している。アイヌ民族の大地、アイヌモシリに日本人とロシア人が勝手に線を引いただけの物語を美しく描いているにとどまる。千島樺太交換条約では、アイヌ民族は「土人」と蔑視され、後に「北海道旧土人保護法」という差別法が制定されるのだが。