Friday, November 09, 2012

琉球救国運動--必然としての「抗日」


後田多 敦『琉球救国運動――抗日の思想と行動』(出版舎Mugen、2010年)



 

恥ずかしながら、こんな重要な本を知らずにいた。2010年10月の出版だ。

 

東アジアが劇的に変化した19世紀末、近代日本が武力で強行した琉球国の併合、いわゆる琉球処分、それに抗った琉球人の思想と行動はいかなる意味を持つのか清国亡命・南清貿易・徴兵忌避など、かれらの具体的な動きを詳細にたどりつつ、それがアジア諸国で生起した抗日運動の先駆的形態であることを明らかにした、東アジア近代史研究の意欲作。>

 

著者<1962年石垣島生まれ。神奈川大学大学院歴史民俗資料学研究科博士前期課程修了。専門は資料学の方法に基づいた琉球思想史、日本近代史。現在、雑誌『うるまネシア』編集委員>

 

以前、「植民者の手を引っ込めるために」で、知念ウシ 與儀秀武 後田多敦 桃原一彦 著『闘争する境界――復帰後世代の沖縄からの報告』(未来社、2012年)をごく簡潔に紹介した。その著者の一人である。


 

琉球処分に抵抗した琉球人がいたことを多少は知っていた。清国に脱出して抵抗が続いたことも。しかし、その内実は本書で初めて知った。本書によると、それなりの研究史があり、それを受けて本格的な研究を行っていることが分かる。我ながら無知だ。

 

本文300ページを超え、註も含めて374頁の本書は、琉球処分への抵抗を『琉球救国運動』と表現する。当然のことながら、独立国家である琉球王国に対する日本の侵略が俎上に乗せられる。植民者の側と、抵抗する側の双方をていねいに追いかけて、琉球処分の経過を明らかにしている。処分される側でも、処分を受け入れる立場もあれば、徹底的に抵抗する立場もある。それらを視野に収めながら、幸地朝常を中心とした抵抗を浮上させる。

 

本書の副題は「抗日の思想と行動」である。まさに「抗日」――その後、台湾、朝鮮半島、東南アジア各地で展開された抗日の先駆的形態である。「抗日」とは、大日本帝国による侵略が、アジア各地の人民に余儀なくさせた思想と運動であるが、そこからアジア人民の主体の練り直しも始まる。

 

「本書では、『琉球救国運動』と『抗日』の視点から、近代史を見直すという課題に取り組んできた。なかでも琉球国滅亡過程における黒党と白党の対立、そして尚王家を中心とした丸一店などの経済活動、徴兵忌避を事例として取り上げた。政治だけでなく、経済や社会的な側面から、沖縄社会のなかにおける運動の広がりを提示できたと思う。」

 

「救国運動の敗北や根本的対立のしこりは、運動に対するマイナスイメージを付与し、タブー視する理由ともなった。しかし、救国運動に参加した人々が中国で滞在中に文化や諸芸を学び、それを沖縄にもたらしたという事実もある。長期間にわたる人々の往来は、沖縄の文化にも影響を刻んだ。この関係の蓄積や抗日運動の経験は沖縄と東アジア各地との間で、現在でも続く友好関係の基礎をつくっているものである。」

 

著者は、当時の琉球救国運動の全体像に迫り、実証的に解明する任務に専念している。それゆえ、著者は「今こそ抗日を」などとは書いていない。植民地宗主国の国民の一人だが、私なら書いている、と思う。

 

東アジア人民史を描きだすためにも、本書は必須の一冊であり、必読である。東アジア各地の「抗日」との比較研究も重要だ。