*『マスコミ市民』556号(2015年5月)
拡散する精神/委縮する表現(50)
今田真人『緊急出版・吉田証言は生きている――慰安婦狩りを命がけで告発! 初公開の赤旗インタビュー』(共栄書房)は、昨年八月以後、朝日新聞や赤旗が「吉田証言は虚偽だから記事を取り消す」としたのに対して、一九九三年一〇月の吉田清治氏へのインタビュー全文を公開し、解説を加える。吉田証言の一部を切り取って、その証言価値を否定する詐欺的手法を批判し、吉田証言全体を読めば証言は虚偽とは言えず、むしろ多くのことを教えてくれることが分かるという。時代背景や現地の具体的状況に照らして納得できる証言だからである。
著者は当時、赤旗記者として吉田氏に取材した。その取材資料の中にあったワープロ用のフロッピーを保存していて、本書第一章に全文を収録している。九三年一〇月四日のインタビューでは、「慰安婦狩り」の実態について、国家犯罪という点について、労務報告会とは何か、済州島の現地訪問について等の質問をしている。続く九三年一〇月一八日のインタビューでは、産経新聞の攻撃への反論について、イヤガラセの卑劣な具体的内容、戦後直後の証拠焼却、かかわった慰安婦の数、著書に書いた年月日について、フィクションの所はどこか、吉田氏の本名等について、質問している。
第二章では、インタビュー時の時代状況を説明したうえで、吉田証言で言及されている事実を分析し、「裏付け得られず虚偽と判断」という認識論は大きな誤りと述べる。民間業者が戦争末期の朝鮮で慰安婦狩りをすることはできず、国家的行為でないとできなかったと言う吉田証言の合理性を指摘し、その他数々の論点を取り上げて、虚偽や捏造と言う非難に根拠がないことを明らかにする。
第三章では、吉田証言を取り消した朝日新聞と赤旗の「検証記事」を検証し、適切な検証がなされていないことを明らかにする。
第四章では、吉田証言を虚偽とし、吉田氏を「詐話師」と非難した秦郁彦『慰安婦と戦場の性』を検証する。秦の手法は「自分を棚に上げ、相手の人格を貶める手法」、「ウソをつきながら、相手を『ウソつき』と断定する手法」、「裏どり証言がないだけで、証言を『ウソ』と断定する手法」、「電話取材での言質を証拠に、『ウソつき』と断定する手法」、「白を黒と言いくるめるための、引用改ざんの手法」であると特徴づけ、さらに「何人もの研究者が秦氏の著作のデタラメさを指摘」とし、三人の研究者(前田朗、南雲和夫、林博史)が秦の論著を批判していることを紹介し、秦を徹底批判する。
私の名前が出てくるのは、私が作成した図を秦が盗用したことを批判したためである。私が公表した文章のうち『マスコミ市民』三七〇号(九九年一〇月)と『季刊戦争責任研究』二七号(〇〇年春季号)の論文が紹介されている。もう一つ『Let’s』二九号(〇〇年一二月)にも秦批判を書いた。秦の歴史学とは盗用、捏造、憶測の歴史学だ、というのが私の結論であった。これに対して秦は弁解にならない弁解を並べた挙句、もう歳だから、などと述べた。噴飯ものであるが、それ以上続けると「個人攻撃」となりかねないこともあって、私は追撃しなかった。そのままになっていた文章を、著者が思い出させてくれた。
吉田証言をどう見るかはなかなか難しい問題であるが、吉田証言を批判した秦郁彦こそ憶測や捏造の歴史学者の疑いがあり、きちんと検証する必要があるのは間違いない。
秦だけではない。吉方べき「『朝日』捏造説は捏造だった」(『週刊金曜日』一〇三五号)によると「朝日新聞や日本の弁護士が騒ぎ始める前は、韓国では『従軍慰安婦』問題など出ていなかった」という渡辺昇一(渡部昇一の誤り)等が広めた話こそが捏造であるという。一九五〇年代から九〇年代の韓国メディアで、様々な時期に様々な形で「慰安婦」問題が報道されていたからである。
秦郁彦、渡部昇一をはじめとする歴史修正主義者が、憶測や捏造を繰り返してきたのではないか。きちんと検証する必要がある。