Sunday, July 26, 2015

希望を求めるナビ(蝶)の羽ばたき

中原道子『歴史は墨でぬりつぶせない――アジアの歴史と女性の人権』(スペース伽耶)
HOWS(本郷ワーカーズスクール)での講義・講演の記録をまとめた1冊。メインは「日本軍『慰安婦』問題の法的解決を」。四半世紀にわたる、日本性奴隷制の解決を求めるハルモニやロラたちの闘いを、ともに闘い続けた著者の日本政府批判は厳しく、鋭い。
だが、著者は政府や政治家だけの責任とは見ない。「慰安婦」問題を許し、放置し、解決しないままやり過ごしてきた日本社会批判、さらには自己批判をも含めた問いかけである。アベシンゾーやハシモトトオルらの暴言を許してきた日本社会の意識を徹底批判しなければ、何も前進しない。著者は、もはや「日本」に何も期待していないが、それでも諦めるわけにはいかない。日本社会構成員の一人として、日本女性の一人として、アジアの女性の一人として、著者は、「慰安婦」被害者が求める解決を追求し続ける。

ソウルのハルモニたちは、「慰安婦」問題の解決を求め、世界中の女性に対する暴力の解決を求めて、ささやかな希望をナビ(蝶)に託して、新たな歩みを踏み出した。ナビの羽ばたきは小さいが、かき消されることなく、いつか世界に達するだろう。夢も涙も、希望も絶望も、信頼も不信も、愛も憎しみも、すべてを内に包み込みつつ、そこから新しい人と人のつながりを求めるハルモニの闘いが続く。彼女たちの闘いを、自らの責任として引き受けてきた著者も、心を込め、願いを込め、ひたむきに羽ばたき続ける。後に続く無数の羽ばたきを信じて。