去年も来たが、チューリヒ・ダダがなかった。日本でもチューリヒ美術館展が開かれたが、やはりダダがほとんどなかった。
今年は1916年にチューリヒに始まったダダイズム100年なので、ふたたびチューリヒ美術館へ来てみた。ダダイズム展は春にやったということだ。それもそうで、夏以後は世界各地に巡回している。日本でもやるようだ。だから去年のチューリヒ美術館展にはダダがなくてもよかったのだ。
夏のチューリヒ美術館はピカビア展だった。パリに生まれたスペイン系フランス人ピカビアは古典主義とキッチュの間、印象派とラディカリズムの間、ダダイズムの関係者でもあり、シュルレアリスムにもモダンアート・抽象画にもかかわる。実に変転する画風、アイデアの宝庫。意外性のそのまた裏をかく。そのパロディ精神はまだ十分理解されていない。
ファシズムに関わる主題の油彩2点の評価が割れたという話も面白かった。一つは、ヒトラーをパロディにした喝采の絵だが、喝采されているのは豚の顔の人物だ。『動物農場』か。もう一つは「春」というタイトルだが、ブルドックのような犬に全裸の美しく若い女性が付き添っている。見ようによっては、ヒトラーにかしずく全裸女性(ヴィシー政権)である。ところが、奥の窓の格子はフランスの監獄の格子を思わせる。ヴィシーのフランス自体が監獄の中、というわけだ。
チューリヒ・ダダ100年なので、ここでピカビアの本格的回顧展が開かれた。油彩を中心とする絵画150点はもちろん、アヴァンギャルド雑誌の表紙デザイン、フィルム(ブルトンやマン・レイとも協力)も含めると200点だ。これまでほんの少ししか見たことがなかったので、回顧展はとてもよかった。
美術館売店でカタログ『チューリヒのダダ』を買った。充実した資料だ。ダダといえばツァラとブルトンだが、本書にはそれだけではなく、エミィ・ヘニングス、ゾフィー・トイバー・アープ、ハンス・アープ、オットー・ヴァン・リース、マルセル・ジャンコ、ハンス・リヒター、クリスチャン・シャドらの作品も載っている。アリス・ベイリーの名前もあるのには驚いたが、驚く方が無知なだけかも。
キャバレー・ヴォルテール関連の資料も多い。ダダの拠点となったキャバレー・ヴォルテールはいまも大聖堂の近くにあるが、今日行ってみたら隣の建物にも「キャバレー・ヴォルテール2016」を出していた。
重要なことは、ダダは絵画だけでなく、文学、演劇、音楽、ダンスなどの総合芸術運動だったことがよくわかることだ。ダダの資料に、クレー、カンディンスキーなど後のバウハウス教授陣の名前も並んでいるのもなんとも。総合とは何か。ダダの総合とバウハウスの総合はもちろん局面が異なるが、どこかでつながっているだろう。
もう一つ重要なのは、ダダの背景に第一次大戦に対する反戦平和運動があったことだ。西欧では当たり前のことで、チューリヒでもこのことを前面に出しているが、日本の美術評論家はこれを必ず隠す。
もう一つ重要なのは、ダダの背景に第一次大戦に対する反戦平和運動があったことだ。西欧では当たり前のことで、チューリヒでもこのことを前面に出しているが、日本の美術評論家はこれを必ず隠す。
授業で使える好材料を入手してご機嫌。
というわけで、Fleur du Rhone,
Cornalin, Valais, 2014.