Thursday, August 18, 2016

最新科学による日本酒分析に学ぶ

和田美代子『日本酒の科学』(ブルーバックス)
素人の著者が専門家に取材してまとめた「日本酒の科学」。素人と言っても、科学雑誌『Quark』などの編集をしていた科学ライターである。お酒について素人を代表する立場に身を置いて、専門研究の成果を分かりやすく伝える著書だ。

日本酒については、20年ほど前にまとめて20冊くらいの本を読んだことがある。酒蔵情報誌や名酒百選のたぐいも読んでいた。酵母、醪や、吟醸、純米や、杜氏の世界の話をよく読んで、知っているつもりになっていた。しかし、現場のことを知らないため記憶はどんどん遠ざかる。
本書は、現場の知識を整理しているのだが、特にバイオ科学の最新研究成果をもとに、まさに「日本酒の科学」を見せてくれる。杜氏たちが伝えてきた伝統の技が、科学的合理性に裏打ちされていることが分かる。
酸性プロテアーゼだの、酸性カルボキシペプチターゼだの、昔の本には出てこなかった。甘味、酸味、塩味、苦味につぐ第5の味とされるうま味は、グルタミン酸、グアニル酸、イノシン酸によるもので、ちゃんと根拠があり、今では欧州でも認められているという。日本酒造りの伝統の世界とバイオ科学の間を行ったり来たりしながら、日本酒の神髄に迫ることができる楽しい本だ。
日本酒は読むものではなく、味わうものだが、知識を得て味わえばもっとうまいことも確か。