アイルランドがCERDに提出した報告書(CERD/C/IRL/5-9.5November2018)
刑法典と1989年憎悪煽動禁止法の両方が人種主義攻撃からの保護のために適用される。
憎悪煽動禁止法は煽動の場合、すなわち言葉を用い、文書を出版又は配布し、画像や音声を放送して、威嚇、罵倒、中傷する犯罪、及び憎悪を掻き立てようとする犯罪に適用される。「憎悪」という言葉は、人種、皮膚の色、国籍、宗教、民族的又は国民的出身、トラベラー共同体のメンバーであること、又は性的志向のゆえに、国内その他の人の集団に対する憎悪と定義される。訴追がなされるのは、憎悪煽動の意図が証明された場合、又は意図の有無にかかわらず憎悪を掻き立てそうになった場合である。意図のある場合だけ訴追できることにした場合の困難を分析した結果、この方法がとられた。2010年以来、憎悪煽動禁止法の訴追事例は12件であり、2件が刑事施設収容判決となった。2件は審理を待っているところである。
刑法上の犯罪は憎悪煽動禁止法の煽動以外の犯罪を扱う。1994年の刑事司法(公共秩序)法、1997年の生命にかかわらない人身侵害法、1991年の刑事損害法がある。暴行、刑事損害、公共秩序犯が人種主義動機を持って行われた場合に関連する。裁判官は量刑判断に際して、人種的動機等の加重事由を考慮することができる。加重事由は全ての事案で量刑に際して考慮される。
アイルランドは公共の安全に関連し、ヘイト・クライムに効果的に対処する義務を満たしている。司法平等省はヘイト・クライムと憎悪煽動に関する法律に従って、人種主義と排外主義に対処する公共政策を強化している。2008年のEU枠組み決定に合致し、2010年11月、EUに報告を提出した。
アイルランドは1968年にICERDに署名した。ICERD第4条については意見表現の自由及び平穏な集会・結社の権利に関連して、留保を付した。留保を撤回する予定は現在ない。
CERDがアイルランドに出した勧告(CERD/C/IRL/CO/5-9.
23 January 2020)
インターネットやSNSにおけるトラベラー、ロマ、難民、難民申請者、移住者に対する人種主義ヘイト・スピーチ事件が増加している。政治家が選挙運動においてヘイト・スピーチを行っている。憎悪煽動禁止法がヘイト・スピーチと闘うのに実効的でない。
すべての形態の表現における人種主義ヘイト・スピーチと効果的に闘うために法律を強化すること。インターネットやSNSでのヘイト・スピーチに取り組む努力を強化すること。オンライン安全・メディア規制法案を国際人権基準に合致させること。政治家によるヘイト・スピーチ等を効果的に捜査し、訴追、処罰すること。かつて設置された選挙委員会に選挙における人種主義ヘイト・スピーチの禁止に関する任務を付与する事。
ジェンダーや宗教のような差別に関連して民族的マイノリティに対するヘイト・クライムが報告されている。現行刑法が人種主義的ヘイト・クライムに対処していない。刑罰加重事由となっていない。極右人種主義のヘイト・クライムが増加しているが、人種主義団体を違法とし、禁止する法律がない。人種主義動機を刑罰加重事由とする法を導入すること。ヘイト・クライムを記録するために明確なガイドラインを用意し、統計データを取ること。人種主義ヘイト・クライムを報告できるように効果的な措置をとること。警察官、検察官、裁判官にヘイト・クライムを認定、登録、捜査、訴追する方法を訓練すること。人種主義団体を条約4条(b)に従って違法とし、禁止する法律を導入すること。