Sunday, December 27, 2020

時代の生き難さを溶かす――「別役実/巳年キリン・ワールド」

巳年キリン『とうめいなやさしさ――別役実の童話とおはなし』(三一書房)

https://31shobo.com/2020/11/20009/

<別役実さん追悼>

不条理演劇の第一人者、別役実さんは、童話作家としても人気があった。

別役さんご自身も「もっとも素朴に楽しんで書いているのが童話だ」と語っていた(『風の研究』あとがき)。

そんな別役作品の中から「とうめいなやさしさ」をテーマに選んだ4作品を、巳年キリン(2018年 貧困ジャーナリズム賞受賞)がまんがにしました。

生きること、働くこと、人との繋がり etc……

現代社会で生き辛さを誰もが感じているなか、心に響く作品です!>

前作『働く、働かない、働けば』で、つぶやき、立ち止まり、働くことについて考える小さな漫画で大きなテーマをそっと論じた巳年キリンが、別役実の童話に挑んだ。

https://maeda-akira.blogspot.com/2017/11/blog-post_19.html

1)理髪師誘拐事件

2)言葉のない物語

3)砂漠の町のX探偵(以上3篇『風の研究 別役実童話集』より)

4)ふなや(『別役実の混沌・コント』より)

怠け者同盟の駐在さんと探偵X氏の会話から始まる「理髪師誘拐事件」は、誘拐されたのに身代金を受け取ってもらえない理髪師の悲哀を、いとも安直に解決してしまう探偵X氏が、実はかつて同じ犯人に誘拐されて身代金を払えずにいたという、シュールなギャグ仕立てである。別役実の童話世界がゆらゆらと前景にせり出してくる。

「砂漠の町のX探偵」では、X探偵事務所に突如現れた動物園の名物ゾウのお尻が消えている、という奇想が「すべて」である。なぜゾウの身体が消えていくのか。謎の解明が不埒に、楽しく、そして切なく解明されていく。

私は、かつて『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(耕文社)で、井上ひさし『頭痛肩こり樋口一葉』の登場人物(幽霊)、「迷える魂」の花蛍が透き通ってしまい、消えていく話の前振りに、花蛍ではなく、逆にホストの「アキラ」が消える話にしてみた(前田朗『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』162頁、及び174頁)。

 

――表アキラ・裏アキラがぼんやりかすんで、徐々に見えなくなる。

 

花蛍――幽霊の私じゃなくて、二人が消えてしまった。いったいどうしたのかしら。

 

かなり四苦八苦してねん出したアイデアだが、別役/巳年漫画では、ゾウという「夢」が儚く消えていく。せつなさをお土産にして、現実に戻るために。

『マッチ売りの少女・象』『不思議の国のアリス 第二戯曲集』『そよそよ族の叛乱 第三戯曲集』『数字で書かれた物語 第四戯曲集』『あーぶくたった、にぃたった 』『にしむくさむらい』『天才バカボンのパパなのだ』『マザー・マザー・マザー 戯曲集』『木に花咲く』『足のある死体・会議 』『太郎の屋根に雪降りつむ』『メリーさんの羊』『ハイキング』『白瀬中尉の南極探検』『ジョバンニの父への旅』『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』『ドラキュラ伯爵の秋』『山猫からの手紙』『はるなつあきふゆ』『猫ふんぢゃった』『風に吹かれてドンキホーテ』『カラカラ天気と五人の紳士』『森から来たカーニバル』『遊園地の思想』『金襴緞子の帯しめながら』『別役実の混沌・コント』と、別役実の主要作品は1969年から1998年にかけて、三一書房から出版された。その後の空白を経て、2017年にも『別役実の混沌・コント:別役実戯曲集』が出ている。

別役実全集を、電子出版でもよいから、出したいところだが、当面は、別役/巳年ワールドをつくりあげ、読者を楽しませ続けてくれるのだろう。