愼蒼宇「『朝鮮植民地戦争』の視点から見た武断政治と三・一独立運動」『朝鮮史研究会論文集』第58集(2020年)
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日本による朝鮮植民地化過程及び植民地統治の全体を通じて、日本軍による戦争及び準戦争状態が続いた。
愼は、日本軍による植民地での軍事暴力と民族運動の関係を長期的・継続的に捉え、「植民地戦争」が「非対称的戦争」――「軍隊とジェノサイドが常に隣り合わせであった」――であり、それゆえ「戦時」と「平時」は未分離であり、義兵戦争のように民族解放の戦い、民衆の抵抗が続いたことを全体として視野に入れて、近代日朝関係史を考察する。
目次
はじめに
一 朝鮮植民地戦争と日本軍隊
1 朝鮮駐屯日本軍の軍事行動とその特徴
2 朝鮮軍司令官・参謀長・各司令官の植民地戦争経験
3 郷土部隊の朝鮮派遣経験
二 1910年代における朝鮮(駐箚)軍の再検討
1 武断政治期の朝鮮(駐箚)軍と植民地戦争の継続
2 シベリア干渉戦争に見る朝鮮(駐箚)軍と朝鮮社会
まとめと展望
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本論文の特質は、東アジアにおける植民地戦争という大きな視野で全体像を描きつつ、日本軍の編成、司令官や参謀長の経歴・実体験、各部隊の移動と経験を綿密かつ丁寧に実証して、日本軍の行動様式や指揮官の意識を規定する要因を明確にしたうえで、個別の証言・記録を分析して、大きな視野の中に位置づけている点にある。
朝鮮派遣軍の師団編成、臨時朝鮮歩兵派遣隊編成師団、司令官経歴一覧、日本陸軍師団と歩兵連隊の「暴徒討伐」経験、黄海道・慶尚北道における3・1運動時の軍隊・憲兵・警察兵器使用事件など、基礎的なデータを詳細に積み上げて、3・1運動当時の歴史的条件、弾圧する側の主体的経験と意識、これに抵抗する民衆の行動を重ね合わせることで、「軍隊とジェノサイドが常に隣り合わせであった」歴史の実相を鮮やかに提示する手法は、比類のない手堅さと意欲的な挑戦の組み合わさった論考を生み出している。
「日本軍の朝鮮植民地戦争経験という視点からのアプローチ」により、「東学農民戦争から3・1運動、そして間島虐殺・関東大震災時の朝鮮人虐殺までの朝鮮(駐箚)軍司令官・参謀長・各司令官の経歴から、彼らの多くが長期にわたって朝鮮での植民地戦争、あるいは朝鮮派兵を経験し、台湾・シベリア・関東大震災朝鮮人虐殺にも連続性が見られた」という。
私は「植民地支配犯罪」――1990年代の国連国際法委員会において議論された概念――をもとに考えてきたが、日本では「植民地支配犯罪」論は受容されていない。この概念は2001年のダーバン宣言の時期から人道に対する罪に収斂していった。それを踏まえつつ、私はコリアン・ジェノサイドとコリアン文化ジェノサイドを論じようと考えている。
この点で愼の「植民地戦争」という視点は非常に重要である。私は歴史学者ではないため、植民地支配犯罪やジェノサイド概念を規範的レベルで略説・展開することはできても、それを日朝関係史のレベルで実証する能力がない。愼は理論仮説を提示するのみならず、着実に実証することで、説得力のある議論をしている。