Saturday, December 19, 2020

ヘイト・クライム禁止法(191)イスラエル

イスラエルがCERDに提出した報告書(CERD/C/ISR/17-19. 14 March 2017

前回報告書以後、法律に変更はない。2012年、検事長は「イデオロギー的ナショナリズム的動機で行われた犯罪」と言う表題のガイドラインを出して、公衆の一部に対して、人種主義的内容又は敵意の動機による犯罪を行った場合は刑罰の上限を二倍にしていることを強調した。地方検察局はイデオロギー的ナショナリズム的犯罪を行う人物を監視するよう要請された。

2012年以来、検事長特別部は、人種主義や敵意の動機の犯罪事案の訴追を行ってきた。暴力的で煽動的な教育を行った宗教教育施設が一つ閉鎖された。同様の理由から財政支援を打ち切った教育施設が一つある。

検事長特別部はインターネット上の煽動事案の訴追も担当している。インターネット上の煽動に対する政策には変更があった。捜査件数及び訴追件数が増加し、正当な甲的言説の「レッドライン」を明確化する公衆意識啓発が行われた。訴追は1か月以内に行うようにし、その進展がメディアを通じて情報提供される。2014年、人種主義と暴力事案が増加し、200件以上を審理開始し、86件を訴追した。2015年、煽動事案と人種的動機による犯罪が80件訴追された。違法な集団の制限のため、2013年、国防大臣は「値段表price-tag」等の言葉を用いる団体、を1945年国防大臣規程84の「違法な集団」であると宣言した。

人種主義的動機の犯罪の刑罰加重は刑法第144条Fで定められている。2016年、13件が認知された。2015年は24件、2014年は41件の捜査が行われた。

イスラエル政府がCERDに提出した報告書・添付資料に、「表2.人種主義煽動犯罪、暴力煽動犯罪、人種主義に動機を持つ犯罪に関する訴追と判決(2014~15年)」が掲載されている。表2には45件の事案が掲載されている。そのうち、起訴されたが現在審理中でまだ判決の出ていない未決事案が26件、判決の出た既決事案が19件である。

未決事案は例えば次のように記載されている。

「事件番号C.C.555152-02-16 イスラエル対Yadid Bernstein事件、起訴日2016年2月24日、被告人は人種主義煽動と暴力煽動のために起訴された。本件は現在審理中である。判決は出ていない。」

以下では既決事案を紹介する。いずれも裁判所名は記載されていない。

Sultan Takatka事件、起訴日2015年11月2日、起訴状によると、被告人はマウント寺院を訪れたが、イスラエルに不法滞在しており、マウント寺院に訪れるユダヤ人集団にハラスメントをする集団の指導者のひとりであった。人種主義中傷を叫び、石を投げるハラスメントである。被告人自身、石を投げた。人種主義的動機をもった集会、暴行未遂、不法侵入で起訴された。判決は2015年11月3日、被告人は5か月の刑事施設収容、5か月の執行猶予を言い渡された。

Muhammad Kundus事件、起訴日2015年9月24日、起訴状によると、数か月間、スタン弾を所持しており、2015年9月1日、シナゴーグと軍事Yashivaの圧建造物の庭でスタン弾を投げた。被告人は無免許にもかかわらずバイクで逃走し、その際2台のバイクを損傷した。被告人は武器所持、武器携帯、公衆への敵意動機による威嚇、軽率で不注意な行為、無免許運転、不注意運転による器物損壊で起訴された。判決は2015年12月27日、被告人は27か月の刑事施設収容、3年間に13か月の執行猶予、釈放後6か月の自動車運転免許停止、及び1000NISの罰金(又は60日の代替収容)を言い渡された。

Moshe Haim Orbach事件、起訴日2015年7月30日、被告人は治安妨害、暴力。テロリズム煽動出版物所持、人種主義出版物所持で起訴された。判決は2016年3月17日、被告人は2件の刑事施設収容、3年間に6か月の執行猶予を言い渡された。

Nissim Hamada事件、起訴日2015年7月5日、被告人は暴力・テロリズム煽動及びテロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年10月11日、被告人は10.5か月の刑事施設収容、7か月の執行猶予を言い渡された。

Ubeida Tawil事件、起訴日2015年7月5日、被告人は暴力・テロリズム煽動、テロリスト集団支援、禁止された結社支援で起訴された。判決は2016年1月13日、被告人は12か月の刑事施設収容、6か月の執行猶予を言い渡された。

Nimer Assi事件、起訴日2015年2月4日、起訴状によると、被告人は仲間とともに、宗教的ユダヤ人全体に対する敵意の動機を持って、「アラーは偉大なり」「すべてのユダヤ人を殺せ」と叫びながら、ユダヤ人に見える通行人を攻撃した。被告人は犯罪の共謀、人種主義動機の加重暴行、人種主義動機の加重暴行未遂で起訴された。判決は2015年10月13日、被告人は15か月の刑事施設収容、12か月の執行猶予、5000NISの告発人への補償金支払いを言い渡された。

Nasser Hidmi事件、起訴日2014年12月25日、被告人は暴力・テロリズム煽動、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年6月28日、被告人は6.5か月の刑事施設収容、6か月の執行猶予を言い渡された。

Omar Ben Taufik Hassan Shalabi事件、起訴日2014年12月22日、被告人は」暴力・トロリズム煽動、人種主義煽動の違法出版、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年5月12日、被告人は9か月の刑事施設収容、5か月の執行猶予を言い渡された。

Nasser Hidmi事件、起訴日2014年12月22日、被告人は暴力煽動、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年6月1日、被告人は10か月の刑事施設収容を言い渡された。

Ibrahim Abadin事件、起訴日2014年12月22日、被告人は暴力・テロリズム煽動、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年6月9日、被告人は10か月の刑事施設収容、5か月の執行猶予を言い渡された。

Udai Biumi事件、起訴日2014年12月21日、被告人は暴力・テロリズム煽動、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年6月22日、被告人は17か月の刑事施設収容(前刑の執行を含む)、5か月の執行猶予を言い渡された。

Shlomo and Nachman Twito事件、起訴日2014年12月15日、被告人らは放火、非現住建造物損壊で起訴された。被告人のうち1名は、暴力煽動、テロリスト集団支援でも起訴された。判決は2015年7月22日、控訴審判決は2016年1月31日、1人目の被告人は32か月の刑事施設収容、3年間に8か月の執行猶予等。2人眼は38か月の刑事施設収容、3年間に10か月の刑事施設収容等を言い渡された。

Yitzhak Gabai事件、起訴日2014年12月15日、被告人は暴力煽動、人種主義煽動、テロリスト集団支援、放火、ナイフ所持で起訴された。判決は2015年12月1日、被告人は放火について24か月の刑事施設収容、ナイフ所持に付き2か月の刑事施設収容、釈放後2年間に2か月の執行猶予、煽動犯罪につき10か月の刑事施設収容、3年間に4か月の執行猶予を言い渡された。

Raz Mizrachi, Oz Danieli and Matan Cohen事件、起訴日2014年11月18日、被告人らは、スポーツにおける暴力禁止法第15条の禁止された人種主義表現で起訴された。2人の判決は2015年11月18日、2人は6か月の刑事施設収容・執行猶予、5000NISの罰金を言い渡された。1人は120日間の社会奉仕命令、5000NISの再発防止保障料を言い渡された。

Sliman Shalbaya事件、起訴日2014年8月13日、被告人は仲間とともに、騒乱の際に、ユダヤ人通行者の車を停車させてタイヤに放火、鍵を開けさせなかった。被告人は放火、人種主義的動機をもった加重暴行、人種主義的動機を持った悪意の器物損壊(加重条件下)で起訴された。判決は2015年9月10日、被告人は6か月の刑事施設収容・社会奉仕命令、3年間に12か月の執行猶予、10000NISの被害者補償、1年間の保護観察を言い渡された。

匿名(少年)事件、起訴日2014年5月18日、被告人は約50台の車のタイヤに穴をあけ、ある家の前にナショナリズムの絵をスプレーで描いた。被告人は人種主義的動機の加重損壊、警察官に対する攻撃で起訴された。判決は2016年1月13日、被告人は3か月の社会奉仕命令、3年間に4か月の執行猶予、10000NISの被害者補償を命じられた。

Yehuda Landsberug and Yehuda Savir事件、及びBinyamin Richter事件、起訴日2014年2月5日、被告人らはマダメー及びフラターのパレスチナ人居住の村々で、夜間に放火し財産損壊を行った。人種主義的動機の共謀、放火による損壊、放火未遂、法秩序侵害で起訴された。2人の被告人の判決は2014年12月21日、被告人はそれぞれ30か月の刑事施設収容を言い渡された。もう1人の判決は2015年2月4日、36か月の刑事施設収容、3年間に12か月の執行猶予を言い渡された。

Basel Wakhed事件、起訴日2014年1月16日、被告人は暴力・トロリズム煽動と脅迫で起訴された。判決は2015年1月20日、被告人は4か月の社会奉仕命令、3年間に8か月の執行猶予、1000NISの罰金、5000NISの被害者補償を言い渡された。

CERDがイスラエルに出した勧告(CERD/C/ISR/CO/17-19. 27 January2020

最近、刑法改正がなされ、殺人罪について人種主義動機が刑罰加重事由とされたことを歓迎する。ヘイト・スピーチ、人種主義煽動、人種主義団体及びその参加を禁止する刑法規定がある。公開演説で公務員、政治家、宗教指導者が人種主義的ヘイト・スピーチを行い、非ユダヤ人マイノリティ、特にパレスチナ人に対する人種主義排外主義的行為があり、裁判では犯行者の人種的国民的出身により異なる基準が用いられている。公開演説における人種主義と排外主義に反対し、特に公務員、政治家、宗教指導者、メディア関係者による人種主義排外主義言説を強く非難すること。非ユダヤ人マイノリティを標的とする人種主義行為と闘う適切な措置を取ること。学校教科書における偏見や憎悪を助長する文章や図を除去すること。検察官や裁判官が、人種主義的ヘイト・クライム/スピーチを、犯行者の人種的国民的出身にかかわらず、同じ基準を用いて訴追するようにすること。