Sunday, February 24, 2013
皮肉の間接的攻撃性――言語の社会心理学
岡本真一郎『言語の社会心理学――伝えたいことは伝わるのか』(中公新書、2013年)
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「ことばは文字どおりには伝わらない」。伝えたいことを伝えるために、どうすればいいのか。そのための言語の社会心理学研究の現状を様々に紹介した本だ。書店で手にしたときに、さまざまな事例が出ているので面白いかも、と思って購入した。勉強にはなるが、面白い本とはいいがたい。でも、関心のある人にはとても面白いのだろう。
第1章 「文字どおり」には伝わらない
第2章 しゃべっていないのになぜ伝わるのか
第3章 相手に気を配る
第4章 自分に気を配る
第5章 対人関係の裏側――攻撃、皮肉
第6章 伝えたいことは伝わるのか
終章 伝えたいことを伝えるには?
昔は会話術とか文章読本とかがあった。今もあるのだろうが、見ていない。就職の面接用の本もある。他方、ビジネス本では、上司がいかにすれば部下の信頼をえられるかといったテーマもよくある。
本書はそうしたハウツー本とは違い、言葉そのものの、社会における役割、コミュニケーションのありかたを社会的行動の実証的経験的方法で論じている。アカデミックだ。文章は平易だが、聞きなれない言葉も少なくない。非言語的チャネル、表示規則と解読規則、限定推移、拡張推移、様式推移、ポライトネス理論、セルフ・ハンディキャッピング、透明性錯覚など。ソシュール言語学の原理論どまりの読者には、なかなか苦労。
白かったのは、一つは自己卑下の特徴で「本心で謙遜しているのか」の記述だ。自己高揚とは逆の自己呈示の過程としての自己卑下だが、その動機は多様である。自己卑下を利用して自分に得な状況をつくりだす打算的な場合もある。実験によると、匿名状況でも自己卑下的な自己呈示がなされることがあり、必ずしも打算的ともいえないようだが、それは自己卑下をバネとしてそれを克服するように積極的に活かしていく作用だという。
もう一つ、皮肉がテーマとして取り上げられていて、「間接的攻撃」と呼ばれていて驚いた。たしかに、皮肉には間接的攻撃と呼ぶべき機能がある。事実に即した皮肉、逆転型の皮肉、非逆転型の皮肉、皮肉におけるコミュニケーションの不誠実性などが語られる・間接的攻撃については、一方で皮肉はユーモアとつながる。曖昧な皮肉も活用できる。しかし、使い方によっては、ユーモアを忘れ、相手に対する攻撃が前面に出てしまうことがある。なるほど。さらに、通じない皮肉にも意味があるという記述に納得。