Thursday, December 31, 2020

2021年のはじめに

新型コロナ禍のため世界が変わった2020年に続く今年はどういう1年になるのだろうか。大晦日には感染者1300人を超えたというニュースが流れた。誰にも予測できない不安な年の始まりだ。ウイルス開発が進んでいるが、副作用問題もあり先行きは不透明だ。

資本主義の限界、格差と貧困、地球環境破壊と汚染、激化する人種・民族差別、宗教・文明・文化のつくられた対立――

ITAI、宇宙産業、イノベーション、「新しい生活様式」――

日本政治・経済の文脈では、2018年の明治150周年、2019年の天皇代替わり、2025年の大阪万博、2027年のリニア新幹線、2030年の札幌五輪と組まれた国策イベント(日本資本主義の再生・延命策)の最重要行事である2020年の東京五輪は2021年に「延期」となった。

新型コロナの現状から言って、五輪反対論者でなくても、五輪開催などとんでもない、ありえない、と考えるのが良識というものだろう。

しかし、この国の資本は良識など意に介さない。何が何でも五輪開催とばかりに、着々と準備が進められ(規模の縮小も含みこみつつ)、自然にやさしい、環境にやさしいなどフェイクPRも活用しながら、強引に五輪開催に突入しようとしている。

とはいえ、最後の決定はアメリカ(国家、資本、TV、スポーツ界)の判断(要請)になるのではないだろうか。重要な政策決定を自分ではできないこの国の政治家と官僚を見ていると、そう思わされる。アメリカの顔色をうかがいながら、IOCが決定するのだろう。

個人的には3月で勤務先を定年退職となる。自由にのびのびと、やりたい放題を許してくれた勤務先、とても居心地が良い職場であった。

おかげで、教育、研究面でもマイウェイを貫くことができた。1992年に初めて出した単著『鏡の中の刑法』以来、28年で単著28冊、共編著・訳書等は100冊を超える。

この1年も比較的ハイペースだった。

前田朗『ヘイト・スピーチと地方自治体――共犯にならないために』(三一書房)

https://31shobo.com/2019/09/19007/

前田朗編『美術家・デザイナーになるまで――いま語られる青春の造形』(彩流社)

https://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-2634-5.html

前田朗『500冊の死刑――死刑廃止再入門』(インパクト出版会)

http://impact-shuppankai.com/products/detail/290

前田朗『憲法9条再入門――その理念と思想を生かすために』(三一書房)

https://31shobo.com/2020/06/20004/

斎藤貴男 前田朗『新にっぽん診断――腐敗する表層、壊死する深層』(三一書房)

https://31shobo.com/2020/10/20008/

今後の情報発信と生活スタイルをどうするか。John Lennonを聴きながら、年末年始にあれこれ考えたが、これまでと同じようにできることを続けていくという平凡な結論に落ち着いた。

これまで取り組んできたテーマをさらに追究することにした。平和と人権の市民運動と研究だ。

もっとも、従来と違う点も出てくる。何よりも、この4半世紀、春休みと夏休みはジュネーヴに滞在して、国連人権機関に通ってきたが、20203月には国連人権理事会に参加していたものの新型コロナのパンデミックとなり、途中帰国せざるを得なかった。20208月は出入国できず、4半世紀ぶりに東京の8月を経験した。

所属団体を絞る必要がある。これまで学会や法律家団体の他に、さまざまな運動体の会員となり会誌をもらい、集会等に参加してきたが、所属団体を徐々に減らしていく予定だ。

かねがね、定年退職したら古典に耽溺、と思っていた。あれも読みたい、これも読み直したい。人文・社会科学の古典だ。学生時代に世界の名著や文学全集類の古典を読み漁った。大学院時代には社会科学方法論という意識からやはり古典に挑んでいた。その後、古典に浸る時間を作ることがなかなかできずに来た。

とはいえ、現代文学も読みたい。エンターテインメントの傑作も愉しみたい。あれも読みたい、これも読みたい。

だが、それだけの時間はとれないだろう。優先順位をつけるしかないが、おのずと決まっていくだろう。

当面はのんびり様子を見ながら、「ニューノーマル」ではない生活スタイルを探っていきたい。

Wednesday, December 30, 2020

美術教養主義宣言!/これ1冊でアートの見方がみるみるわかる!

小倉康之監修『ビジネスエリートのための!リベラルアーツ西洋美術』(すばる舎)

https://www.subarusya.jp/book/b547922.html

今年最後の読書は「美術教養主義宣言!」だ。

「ここで学ぶことは、あなたがたが社会に出るにあたり、直接的には何も役に立ちません」。

こう言い切る著者は、「役に立つ」「役に立たない」の価値基準に異を唱える。絵画や小説などの「役に立たない文化を作り上げてきたのは人類だけなのです。つまりそれらは、人類を他の動物と分かつものと言うことができます。役に立たないことをする点にこそ、私たちが人間である所以があるのではないでしょうか」。

教養主義はスノビズムではなく、異文化を理解するための手がかりであり、国際人になるには必須である。美術は「心に効く薬」あるいは「心のサプリメント」である。それゆえ著者は「美術教養主義!」を宣言する。

宣伝文句は次の通り。

<『ビジネスエリートのための!リベラルアーツ 哲学』の続編。これ1冊で、アートの見方がみるみるわかります!いざ美術全集を手に取っても年代順に作品を眺めるだけではサッパリ楽しめないアートの世界観。それもそのはず、アートを楽しむには「なぜこの作品が生まれたのか」……当時の政治や宗教、社会情勢、作品を形作る技法やテーマ、経済的な事情など、さまざまな背景とセットで見ることが近道なのです。ルネサンスなどのメジャーな作品から難解と思われがちな現代美術まで、初心者にもわかりやすい切り口で、作品の見方を紹介。全ページカラー、西洋美術図版約100点。>

目次

Prologue 美術教養主義宣言!

Chapter1 一枚の絵からわかること

Chapter2 アートとお金

Chapter3 アートと社会

Chapter4 私たちの暮らしとアート

Chapter5 鑑賞のための手引き

Chapter6 知っておきたいテーマ

Chapter7 アートの歴史を駆け足で

小倉康之監修・執筆で、他に執筆者は池上英洋、藤井匡、川口清香。小倉は西洋美術史研究、池上は西洋美術史・文化史、藤井は学芸員で主に現代日本彫刻研究、川口はフリーライター、編集者。池上と藤井は同僚であり、彼らの著書を何冊も読んできた。専門書を読みこなす能力は私にはないが、一般向けの著書は愉しく読める。

Monday, December 28, 2020

さようなら!福沢諭吉第10号

安川寿之輔先生のライフワーク、福沢の引退を求める三者合同講演会(三者とは、安川先生、雁屋哲氏、杉田聡氏)の機関誌『さようなら!福沢諭吉』第10号(20201225日発行)が出た。

植民地主義者、人種主義者、ヘイト・スピーカーの福沢諭吉を1万円札から消そう、引退させようという運動である。福沢の引退はすでに決まっているが、次の1万円札は、渋沢栄一だ。渋沢も朝鮮植民地支配と収奪の張本人だ。1万円札は中村哲にしたい。

スイス・フランでは画家のホドラーや彫刻家のジャコメティの作品を使ったことがある。昔のフランス・フランは星の王子様だった。草間彌生の作品にしてもよい。

10号目次

前田 朗 :日本植民地主義をいかに把握するか(六)

小出裕章 :反原発 駅前に立つ志(信濃毎日新聞)

雁屋 哲 :福沢諭吉と丸山眞男(二)

青木 茂 :『万人坑に向き合う日本人』

安川寿之輔:在日歌人・朴貞花が告発・糾弾する日本近現代史

西大寺 功:サンフランシスコ市の慰安婦像

トピック :日本の恥、名古屋の恥、河村たかし

岩本 勲 :機関誌『さようなら!福沢諭吉』第9号への寸評

杉田 聡 :植木枝盛と福沢の「官民調和」論批判

編集後記

総頁122頁のブックレットである。冒頭の「日本植民地主義をいかに把握するか(六)」は、朝鮮半島からの文化財略奪問題を考えるための一つの視点として、国際法におけるジェノサイド概念と文化ジェノサイド概念を紹介している。これだけで25頁使ったのはいささか申し訳ない。

安川先生の「在日歌人・朴貞花が告発・糾弾する日本近現代史」は約30頁にわたって、朴貞花の半世紀になろうとする歌業から、日本帝国主義による植民地支配と、朝鮮人に対する暴力と差別を取り上げて詠んだ短歌を中心に紹介している。

定価表示はないが、1000円。入手希望の方は安川先生、又は前田までご連絡ください。

黒川賭け麻雀事件起訴相当議決・菅政権による検察・行政の強権支配を糺す会声明

「菅政権による検察・行政の強権支配を糺す会」は、12月28日、霞ヶ関の司法記者会で記者会見を行った。

藤田高景・同会代表、大口昭彦・弁護士、吉池俊子・アジアフォーラム横浜代表、そして私の4人が、12月24日の検察審査会による「起訴相当」議決を踏まえて、東京地検に適正捜査を行い、黒川元検事長を起訴するように求めた。

7月の不当な不起訴処分に対して、検察審査会が厳しく批判し、起訴相当と議決したのは極めて重要な成果である。市民の常識を司法に反映させる一里塚だ。

東京地検特捜部の再捜査が行われることになった。実際にはろくに捜査もせずに、再度、不起訴処分をするだろう。身内の犯罪に大甘なのは、昔からだ。

私たちの課題は2度目の検察審査会「起訴」議決を勝ちとることになるだろう。

以下に12月28日に発表した私たちの声明を貼り付ける。

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20201228

緊急声明

 

検察は政権に忖度することなく、法と正義に則って黒川元検事長を起訴すべきだ


菅政権による検察・行政の強権支配を糺す会

 

私たちは、721日、東京高検の黒川元検事長に対する公正な処分を求めて検察審査会に申し立てを行なった。

 

私たちが、62日に、東京地検に、黒川元検事長を常習賭博罪で告発していたが、東京地検が710日付けで黒川元検事長を不起訴処分にしたことをうけての申し立てであった。

 

検察審査会への申し立ては、田中宏(一橋大学名誉教授)、髙野孟(ジャーナリスト)前田朗(東京造形大学教授)、清水雅彦(日本体育大学教授)など、全国の学者・研究者・ジャーナリスト・市民等、121名が連名で行なった。僅かの期間で、たくさんの方々が名を連ねたのは、本問題に対する、国民の怒りの声の反映といえる。

 

安倍首相は定年延長を餌にして検察首脳を支配下におこうとした。安倍政権の姑息で、卑劣な狙いが明白となり、検事総長経験者や多くの市民から糾弾の声が上がった。

しかるに検察はコロナによる緊急事態の最中に、違法な賭けマージャンを繰り返しおこなった黒川元検事長に対して、検察首脳であるが故に不起訴にした事は、主権者の声に背き、国民を裏切る行為だ。検察は、今こそ、主権者の声をしっかりと受け止め、明確に犯罪である常習賭博を犯した黒川元検事長を起訴すべきだという理由で私たちは告発を行なった。

 

検察は7月に不起訴にしたが、検察が不起訴処分(起訴猶予)にした3つの理由の①常習性は認められない。②掛け金も少額で違法性がない。③すでに社会的制裁も受けている。は、いずれも全く失当であり、誤りである。

 

まず第1の理由の常習性については、本件はこの10年以上にわたって被疑者が、赤坂・新橋などに所在する麻雀屋で、賭けマージャンに興じてきた事は明白であり、本件に於ける常習性の存在は明白だからだ。

 

2の違法性が低いとの評価については、掛け金がさして大きくなかったことが理由にされているのは大きな誤りだ。むしろ本件不起訴処分によって、「点ピンであれば賭博罪にならないんだ」とか「この程度の掛け金であればいくら金を賭けても麻雀賭博はいいんだ」との一般的認識が拡大しつつある。本件はまさに「一罰百戒」とは全く逆の「一免百許」ともいうべき、愚かな処分であった。

 

3の「すでに社会的制裁を受けている」との評価も、全く、誤りだ。被疑者のような高級公務員が、ほとんど処分ともいえない「訓告」処分に終わったことも全く理不尽だ。黒川氏が検事長を務めていた東京高検が作成している倫理綱領ともいうべき「品位と誇りを胸に」という冊子には、賭博は減給または戒告、常習賭博は停職と明確に、書かれている。このような処分がなされてこそ社会的制裁と言えるのだ。検察の倫理規範をも踏みにじったのが今回の不当な処分だ。過去、第一線の警察官は麻雀賭博で略式起訴され、自衛官も厳しく処罰されている。検察首脳には甘く、一般公務員には厳しいなどという処分は、到底、許されない。厳正な処分が必要だからだ。

 

今回、検察審査会が、私たち国民の怒りと正義の声に対して「起訴相当」との真っ当な結論を出したことは、高く評価し、敬意を表したい。

 

多くの国民は、安倍元首相の桜を見る会の前夜祭についても、こういう悪事の追及が起こることを推定して、安倍氏が官邸の忠実な番犬と言われた黒川元検事長を、検事総長に据えようとしていたのだと分かってきた。

 

永田町の常識として、国会議員の秘書が700万円もの大金を議員に無断で使うなどということはあり得ない。そのような行為を行なった秘書は、即刻、首になる。それだけでは済まない。これだけの大金の無断使用であれば、多くの議員はその秘書を刑事告発するであろう。

 

その意味で、1225日の安倍氏の国会での答弁は、虚偽そのものだ。国民を愚弄する背信行為そのものだ。口先だけのその場しのぎの嘘つき答弁が許される筈がない。首相の座を降りたからと言って、その責任から逃げることは断じて許されてはならない。

 

私たちは、黒川元検事長の起訴の実現と、安倍首相の法律違反・国会での虚偽答弁の乱発と開き直りを許さず、安倍氏の起訴と議員辞職を実現するため、今後、全国の市民の皆さんに呼掛けて最大限に運動を強化していくことを宣言する。




Sunday, December 27, 2020

スガ疫病神首相語録05

 

「国民の誤解を招いたとしたら」

国民に5人以上の会食中止を呼びかけた夜に8人でステーキ会食にふけったことが発覚した時の言い訳。

「誰も誤解していない」と返されて沈黙したが、後日、ニカイ幹事長が「会食目的でない」と意味不明の釈明。

ニカイもゴカイもないのに、会食目的でないなら談合目的か。

一妖来服

*疫病神が来て、言うことを聞かない官僚を首にし、気に入らない学者を任命拒否することにより、周囲を服従させること(一陽来復)

平輪主義

*シンゾーの場合、「周りをなぎ倒し、平らげて一人で和むこと」を意味したが、スガの場合、「新型コロナの下、国民には多人数会食を止めるよう呼びかけ、自分は平然と輪になって会食すること」(平和主義)

因我応報

*周囲の助言に耳を貸さず、我流、我田引水を貫き、協力した国民に応分の報酬は出さず、自分とお仲間の利権を漁るスガーリン主義(因果応報)

猪突猛信

*科学的にリスクが高いとわかっていても、感染拡散の危険があるとわかっていても、GOTOGOTOと、信じた政策をひたすら追求し、失敗した時の代替策を一切用意せず、新型コロナを全国に拡散して、死者を増やすこと(猪突猛進)

唇螺万象

*シンゾーは「私は森羅万象を司る」と妄想を爆発させたが、法螺を吹くことでは負けないスガは虚言と回答拒否で万象を貶める(森羅万象)

時代の生き難さを溶かす――「別役実/巳年キリン・ワールド」

巳年キリン『とうめいなやさしさ――別役実の童話とおはなし』(三一書房)

https://31shobo.com/2020/11/20009/

<別役実さん追悼>

不条理演劇の第一人者、別役実さんは、童話作家としても人気があった。

別役さんご自身も「もっとも素朴に楽しんで書いているのが童話だ」と語っていた(『風の研究』あとがき)。

そんな別役作品の中から「とうめいなやさしさ」をテーマに選んだ4作品を、巳年キリン(2018年 貧困ジャーナリズム賞受賞)がまんがにしました。

生きること、働くこと、人との繋がり etc……

現代社会で生き辛さを誰もが感じているなか、心に響く作品です!>

前作『働く、働かない、働けば』で、つぶやき、立ち止まり、働くことについて考える小さな漫画で大きなテーマをそっと論じた巳年キリンが、別役実の童話に挑んだ。

https://maeda-akira.blogspot.com/2017/11/blog-post_19.html

1)理髪師誘拐事件

2)言葉のない物語

3)砂漠の町のX探偵(以上3篇『風の研究 別役実童話集』より)

4)ふなや(『別役実の混沌・コント』より)

怠け者同盟の駐在さんと探偵X氏の会話から始まる「理髪師誘拐事件」は、誘拐されたのに身代金を受け取ってもらえない理髪師の悲哀を、いとも安直に解決してしまう探偵X氏が、実はかつて同じ犯人に誘拐されて身代金を払えずにいたという、シュールなギャグ仕立てである。別役実の童話世界がゆらゆらと前景にせり出してくる。

「砂漠の町のX探偵」では、X探偵事務所に突如現れた動物園の名物ゾウのお尻が消えている、という奇想が「すべて」である。なぜゾウの身体が消えていくのか。謎の解明が不埒に、楽しく、そして切なく解明されていく。

私は、かつて『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(耕文社)で、井上ひさし『頭痛肩こり樋口一葉』の登場人物(幽霊)、「迷える魂」の花蛍が透き通ってしまい、消えていく話の前振りに、花蛍ではなく、逆にホストの「アキラ」が消える話にしてみた(前田朗『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』162頁、及び174頁)。

 

――表アキラ・裏アキラがぼんやりかすんで、徐々に見えなくなる。

 

花蛍――幽霊の私じゃなくて、二人が消えてしまった。いったいどうしたのかしら。

 

かなり四苦八苦してねん出したアイデアだが、別役/巳年漫画では、ゾウという「夢」が儚く消えていく。せつなさをお土産にして、現実に戻るために。

『マッチ売りの少女・象』『不思議の国のアリス 第二戯曲集』『そよそよ族の叛乱 第三戯曲集』『数字で書かれた物語 第四戯曲集』『あーぶくたった、にぃたった 』『にしむくさむらい』『天才バカボンのパパなのだ』『マザー・マザー・マザー 戯曲集』『木に花咲く』『足のある死体・会議 』『太郎の屋根に雪降りつむ』『メリーさんの羊』『ハイキング』『白瀬中尉の南極探検』『ジョバンニの父への旅』『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』『ドラキュラ伯爵の秋』『山猫からの手紙』『はるなつあきふゆ』『猫ふんぢゃった』『風に吹かれてドンキホーテ』『カラカラ天気と五人の紳士』『森から来たカーニバル』『遊園地の思想』『金襴緞子の帯しめながら』『別役実の混沌・コント』と、別役実の主要作品は1969年から1998年にかけて、三一書房から出版された。その後の空白を経て、2017年にも『別役実の混沌・コント:別役実戯曲集』が出ている。

別役実全集を、電子出版でもよいから、出したいところだが、当面は、別役/巳年ワールドをつくりあげ、読者を楽しませ続けてくれるのだろう。

ヘイト・スピーチ研究文献(160)川崎ヘイト葉書事件

瀧大知「『ふれあい館』への虐殺宣言と法務大臣による非難メッセージまでの経緯」『コリアNGOセンターNews Letter』53号(2020年)

川崎市桜本にある「ふれあい館」に、在日韓国朝鮮人の抹殺を唱える年賀状が届いた(神奈川新聞2020年1月4日)。同月27日にはふれあい館に対する爆破予告ハガキが届いた。2月にはくぁさきくの小中学校に爆破予告の脅迫文が置かれた。3月6日にはふれあい館のごみ集積場に模造刀や木刀が立てかけられていた。これらの相互関係が明確になっているわけではないが、被害者側に深刻な危機感を抱かせたことは言うまでもない。6月2日、爆破予告をした元市職員の男性が逮捕された。

著者の瀧大知は外国人人権法連絡会事務局次長として、本件に取り組んできた立場から、経緯を報告している。同連絡会は1月20日、2月9日に声明を発し、オンライン署名を開始。2月6日には署名・賛同団体リストを法務省人権擁護局に提出した。3月11日追加提出。

ようやく3月24日、森雅子法務大臣が法務委員会でヘイト・クライムを非難する発言をした。内容は不十分ながら、これまで「個別案件へのコメントは差し控える」と無責任を決め込んできた法務省の姿勢転換と言えなくもない。瀧は「小さいながらも重要な出来事であった」という。被害者を始め、ヘイトに反対し外国人の人権を擁護する多くの人々が声をあげた成果である。

瀧は、避難や犯人逮捕だけで自体が解決したとは言えないとし、ヘイト・スピーチを許容してきた日本社会の在り方そのものを問う必要を指摘する。2019年12月12日の川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例が制定されたが、瀧は「差別の循環」から抜け出るため、川崎モデルを全国に広め、国レベルで人種差別禁止法を制定する課題を指摘する。

*なお、12月3日、横浜地裁川崎支部は、川崎市の多文化交流施設「川崎市ふれあい館」に在日コリアン殺害や施設爆破を予告したり、学校などに9通の脅迫状を送ったとして、威力業務妨害罪に問われた川崎市の元職員の男性被告人に懲役1年(求刑懲役2年)の実刑判決を言い渡した。

Saturday, December 26, 2020

桜を見る会疑惑刑事告発・東京地検「処分通知書」

桜を見る会疑惑の「処分通知書」が届きました。下記に引用します。

秘書のせいにして責任逃れをするアベシンゾーを許す無責任な東京地検です。

担当検事は田渕大輔。

7月に黒川賭け麻雀事件で不起訴処分をしたのも田渕大輔。

骨の髄まで腐っています。

 

*********************************

 

前田 朗 殿

 

処 分 通 知 書

令和2年12月24日

 

 

東京地方検察庁

検察官検事  田 渕 大 輔

 

貴殿から令和2年5月4日付で告発のあった次の被疑事件は、下記のとおり処分したので通知します。

                   記

 

1 被疑者  (1)安 倍 晋 三

       (2)配 川 博 之

       (3)阿 立 豊 彦

 

2 罪 名  (1)、(2)につき、公職選挙法違反

       (1)~(3)につき、政治資金規正法違反

 

3 事件番号 (1)令和2年検第18325号

       (2)   同  18326号

       (3)   同  18327号

 

4 処分年月日  令和2年12月24日

 

5 処分区分 (1)、(3) 不起訴

       (2)    政治資金規正法違反につき、略式命令請求

              公職選挙法違反につき、不起訴

Friday, December 25, 2020

スガ疫病神首相語録04

「お答えは差し控えます」

安倍政権の間、国会で頻繁に使われた言葉。この5年は毎年300回以上使われたという。

https://www.asahi.com/articles/ASNC66FTBNC5UTIL03Z.html

スガも最初から回答拒否が目につく。国会や国民を軽んじて、民主主義を足蹴にする姿勢が一貫している。

謹厳実直で、節を曲げず、決してブレない、天上天下唯我独尊のスガーリン流は人生を貫いている。

(保育園園長)――よっちゃん、またおねしょしたのね。

「……(無言)」

(小学校教師)――よしひでくん、うろうろしないで、ちゃんと座りなさい。

「フン……(あとは無言)」

(中学校教師)――スガ、今日も宿題忘れたのか。

「答えたくありません」

(法政大学教授)――スガ君だね、本学を受験した動機は何ですか。

「お答えしかねます」

(横浜市民)――スガ議員、先日の陳情の件はどうなりましたか。

「いちいち市民に答えるつもりはない」

(ジミン党党首)――次の総裁選では投票をよろしく。

「まだお答えする用意ができておりません」

(東京新聞記者)――官房長官、本当のことを言ってください。

「あなたに答える義務はない」

(野党議員)――任命拒否の理由は何ですか。

「お答えは差し控えます」

(三途の川渡し守)――ここを渡ると戻れませんよ、いいんですか。

「答えたくもないね」

(閻魔大王)――お前はなぜここに来たのか、わかっているだろうな。

「お答えは差し控えます」

(閻魔大王)――問答無用とはいい度胸だ。さあ、舌を引っこ抜こう。……あれっ、これはイミテーションじゃないか。お前の舌はどこにある? 義眼ならぬ、義舌とは珍しいな。そういえば、お前の名前は義偉!

Tuesday, December 22, 2020

スガ疫病神首相語録03

「自助、共助、公助」

スガ年来の主張で、何よりも自助、自己責任を求め、なんとか生きのびたら、最後の最後に公助があるかもしれないという素晴らしい国の福祉論。

 

自助共助 庶民は排除し 公助は削除

 

自助でステーキ会食 公助は捨てようゴミ箱へ

 

人減らし 負担倍増 高齢者医療

 

自助を勧奨 自慢を常用 自衛は敵基地攻撃だ

 

乱れ撃ち 陸から海から それ!イージス!

 

嘘118回 スガスガしく 前任者に倣います

Monday, December 21, 2020

「桜を見る会」を追及する法律家の会、第2次告発状

12月21日、法律家の会は東京地方検察庁に告発状を提出した。

*告発状末尾には「桜を見る会前夜祭・収支不記載の収支報告書・会費徴収額と補填額」という一覧表がついているが、ここでは省略した。

 

告  発  状

被告発人

 氏名 安倍晋三

 職業 衆議院議員・晋和会代表者

被告発人

 氏名 配川博之

 職業 安倍晋三後援会代表者・同前会計責任者

被告発人

 氏名 阿立豊彦

 職業 安倍晋三後援会会計責任者

被告発人

 氏名 西山猛

 職業 晋和会会計責任者

 

告発の趣旨

 

 1 被告発人安倍晋三、被告発人配川博之、被告発人阿立豊彦及び被告発人西山猛の後記第1の1ないし5及び第2の1ないし5の所為は、刑法60条、政治資金規正法第25条1項2号、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。

2 被告発人安倍晋三の後記第3の所為は、政治資金規正法第25条2項、同条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。

3 被告発人安倍晋三の後記第4の所為は、政治資金規正法第27条2項、同法25条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。

4 被告発人安倍晋三及び被告発人配川博之の後記第5の1および2の所為は、刑法60条、公職選挙法249条の5第1項及び同法199条の5第1項に該当する。

よって、上記の被告発人らにつき、厳重な処罰を求め、告発する。

 

告発の事実

 

第1 被告発人安倍晋三(以下、「被告発人安倍」という)は、2014(平成26)年12月14日施行の第47回衆議院議員選挙及び2017(平成29)年10月22日施行の第48回衆議院議員選挙に際して、いずれも山口県第4区から立候補し当選した衆議院議員であり、被告発人配川博之(以下、「被告発人配川」という)は、安倍晋三後援会(以下、「後援会」という)の代表者を務めると共に少なくとも2016(平成28)年5月27日までは後援会の会計責任者を務めていたものであり、被告発人阿立豊彦(以下、「被告発人阿立」という)は、遅くとも2017(平成29)年5月29日頃から現在まで後援会の会計責任者を務めている者であるが、政治資金規正法第12条1項により、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、

 

1 被告発人安倍及び被告発人配川は、共謀の上、2016(平成28)年5月下旬頃、山口県下関市東大和町1丁目8番16号所在の安倍晋三後援会事務所において、真実は、2015(平成27)年4月17日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」(以下、「前夜祭」又は「本件宴会」などという)の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約540名を乗じた推計約279万円及び被告発人安倍の資金管理団体晋和会から157万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、上記前夜祭の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約427万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2015(平成27)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2016(平成28)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

2 被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、2017(平成29)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2016(平成28)年4月8日、ANAインターコンチネンタルホテル東京において開催された宴会である「桜を見る会 安倍晋三後援会懇親会」(以下、「本件宴会」などという)の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約458名を乗じた推計約229万円及び晋和会から約177万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ANAインターコンチネンタルホテル東京に対し、少なくとも推計約407万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2016(平成28)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2017(平成29)年5月29日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

3 被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、2018(平成30)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2017(平成29)年4月14日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約482名を乗じた推計約241万円及び晋和会から約186万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約427万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2017(平成29)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2018(平成30)年5月24日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

4 被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、2019(令和1)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約608名を乗じた推計約304万円及び晋和会から約145万の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約448万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2018(平成30)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2019(令和1)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

5 被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、2020(令和2)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約768名を乗じた推計約384万円及び晋和会から約251万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約634万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2019(令和1)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2020(令和2)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

第2 被告発人安倍は、晋和会の代表者であり、被告発人西山猛(以下、「被告発人西山」という)は晋和会の会計責任者を務めている者であるが、政治資金規正法第12条1項により、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、

 

1 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2016(平成28)年5月下旬頃、東京都千代田区永田町2丁目2番1号 衆議院第一議員会館1212号室所在の晋和会事務所において、真実は、2015(平成27)年4月17日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約157万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2015(平成27)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2016(平成28)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

2 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2017(平成29)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2016(平成28)年4月8日、ANAインターコンチネンタルホテル東京において開催された宴会である「桜を見る会 安倍晋三後援会懇親会」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約177万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2016(平成28)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2017(平成29)年5月26日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

3 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2018(平成30)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2017(平成29)年4月14日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約186万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2017(平成29)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2018(平成30)年5月16日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

4 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2019(令和1)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約145万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2018(平成30)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2019(令和1)年5月24日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

5 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2020(令和2)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約251万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2019(令和1)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2020(令和2)年5月18日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

第3 被告発人安倍は、、晋和会の代表者であるが、政治資金規正法第12条1項により山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、上記第2の3ないし5の所為について仮に故意がなかったとしても、、晋和会の会計責任者である被告発人西山の選任及び監督につき相当の注意を怠り、

 

第4 被告発人安倍は、、晋和会の代表者であるが、政治資金規正法第12条1項により山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、仮に故意がなかったとしても、重大な過失により、上記第2の1ないし5の所為を犯し、

 

第5 被告発人安倍及び被告発人配川は、共謀の上、法定の除外事由がないのに、

 

1 2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、後援会を介し、被告発人安倍の選挙区内にある後援会員らに対し、飲食費の1人あたり単価が少なくとも1万1000円程度であるところ、1人あたり5000円の参加費のみを徴収し、もって1人あたり少なくとも6000円相当の酒食を無償で提供して寄附をし、

 

2 2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、後援会を介し、被告発人安倍の選挙区内にある後援会員らに対し、飲食費の1人あたり単価が少なくとも1万1000円程度であるところ、1人あたり5000円の参加費のみを徴収し、もって1人あたり少なくとも6000円相当の酒食を無償で提供して寄附をし

たものである。

 

告発に至る経緯

 

1 2020(令和2)年5月21日、法律家621人が、2018(平成30)年4月20日開催された「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」に関して、被告発人安倍、被告発人阿立及び被告発人配川を政治資金規正法第25条1項2号(収支報告書不記載)の罪で、また被告発人安倍及び被告発人配川を公職選挙法249条の5第1項(寄附)の罪で東京地検に告発し、大きく報道された。その後も、同じ内容の告発は続き、告発人は現在、980人に達している(第1次告発)。

2 しかるに東京地検特捜部は、いまだに上記告発人らに対し、捜査の進捗状況を明らかにしないばかりか、再三の問合せに対しても、告発を受理したかどうかすら、「捜査に関わることはお答えできない」などとして明らかにしない。極めて不当かつ不誠実な対応であり、強く抗議する。

3 同年11月23日、読売新聞が、「『桜を見る会』の前夜祭を巡り、安倍氏らに対して政治資金規正法違反容疑などでの告発状が出されていた問題で、東京地検特捜部が安倍氏の公設第1秘書らから任意で事情聴取していた」、「前夜祭の飲食代などの総額は、参加者の会費だけでは不足していた」と報道したのを皮切りに、報道機関各社が独自取材に基づき、捜査内容を報道し始めた。

  これまでの報道によれば、収支報告書不記載の罪で時効にかからない2015(平成27)年4月から2019(平成31)年4月まで5回開催された前夜祭において、参加者らから徴収する1人5000円の参加費ではホテルへの支払額に足りず、差額分を被告発人安倍の政治資金団体晋和会がホテルに対し現金で支払っていたとのことであり、毎年の参加費及び補填額も明らかにされている。ホテルからは晋和会宛ての領収証が発行されていたが、被告発人安倍側はこれら領収証を廃棄していたということである。

  また、ホテル側はつねに前夜祭の明細書を作成し、後援会に渡していたということである。

被告発人安倍は、国会において、「会費はホテル側が設定した。安倍事務所の職員が会場入り口で会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡した」、「後援会に収入支出は一切なく、政治資金規正法への記載は必要ない」、「ホテルからの明細書も見積書もない」と再三答弁してきたが、こうした答弁が客観的に虚偽だったことが明白になった。

4 現在、報道によれば、検察は、公設第1秘書及び事務担当者の収支報告書不記載につき政治資金規正法違反により略式起訴をして罰金刑とし、被告発人安倍については「事情聴取」の上、年内に不起訴処分とする予定であるとされている。

  しかし、本件は、7年8か月にわたり内閣総理大臣の地位にあった被告発人安倍の後援会や資金管理団体が犯し続けてきた犯罪であり、しかも国会で虚偽答弁を重ね続けたこと、国会での追及後である2020(令和2)年5月に提出した2019(令和1)年分の収支報告書にもあえて収支を不記載としたことなど、悪質かつ重大な犯罪であり、決して秘書だけの処罰、略式請求により犯罪の全容が国民に公開されない処理で済ませるべき事案ではない。

また、捜査の過程で、後援会だけでなく、被告発人安倍が代表者となっている政治資金団体晋和会から資金が拠出されたことが明白になったにもかかわらず、晋和会の収支不記載についての被疑事実がいっこうに報道されないこと、第一次告発で指摘した後援会員らに対する寄附行為についても捜査が及んでいる様子がうかがわれないことも、不可解であり、問題である。

 5 私たちは、12月1日、東京地検特捜部に対し、徹底した捜査と真相解明を尽くし、略式起訴で終わらせず正式起訴をせよとの要請書を提出し、同月8日には東京地検特捜部に対し再度の要請書を提出するとともに、東京簡易裁判所裁判官に対し、仮に略式請求がなされても事案の重大性に鑑み正式裁判をせよとの要請書を提出したが、東京地検特捜部はこれらの要請を受け止めることなく、年内に捜査の幕を引くことを公言している。

 6 そこで、私たちは、安易な事件終結を許さないため、このたび改めて、2015(平成27)年4月から2019(平成31)年4月まで5回開催された前夜祭に関する2016(平成28)年5月から2020(令和2)年5月まで5回提出された、後援会及び晋和会の収支報告書の不記載による政治資金規正法違反の犯罪と、2018(平成30)年4月および2019(平成31)年4月の前夜祭における後援会員らに対する寄附による公職選挙法違反の犯罪について、被告発人安倍らを告発するものである。

   告発対象を過去5年内ないし3年内の行為に限定したのは、公訴時効の関係であって、これら犯罪は2013(平成25)年4月の第1回目の前夜祭から7年7回にわたって行われてきたことを重く受け止めるべきである。

 

告発事実のポイント

 

Ⅰ 政治資金規正法違反(収支報告書不記載)について

1 告発事実第1(後援会)

告発事実第1は、後援会の5年間の収支報告書に、前夜祭の費用にかかる収支を一切記載しなかった行為の処罰を求めるものである。

第一次告発状で詳細に指摘したとおり、前夜祭のホテルとの契約主体は、あくまでも後援会である。

従って、参加者から徴収した参加費も後援会の収入であり、これを契約主体である後援会がホテルに支払うものである。

また、ホテルが晋和会に補填分の領収証を発行したことが明らかになっているが、ホテルとの契約の主体が後援会である以上、代金支払債務を負うのは後援会であるから、これも後援会からホテルに対する支出として扱われなければならず、従って、その収入は晋和会から入金されたものとして記載されなければならない。

以上により、後援会は、参加者から徴収した参加費及び晋和会から入金された補填金をそれぞれ収支報告書の収入として記載し、上記の合計額をホテルへの支出として記載しなければならないにもかかわらず、これらを一切記載しなかったことが犯罪となる。

なお、それぞれの金額は、11月25日付朝日新聞の報道によるものである。

 

 2 告発事実第2(晋和会)

告発事実第2は、晋和会の5年間の収支報告書に、前夜祭の費用にかかる収支を一切記載しなかった行為の処罰を求めるものである。

前述のとおり、晋和会がホテルに渡し晋和会宛ての領収証の発行を受けた前夜祭の補填金は、事実上後援会の支払義務を肩代わりしたものであり、法的には後援会に対して支出したものと評価されるべきである。

また、後援会に対し、5年間で900万円以上の支出をしたのであれば、その原資について収入もなければおかしいが、晋和会の収支報告書にはその収入の記載もない。

以上により、晋和会は、後援会への支出とその原資の収入を、それぞれ収支報告書に記載しなければならないにもかかわらず、これらを一切記載しなかったことが犯罪となる。

それぞれの金額は、第1と同様、11月25日付朝日新聞の報道によるものである。

 

 3 補填分の原資を公開することは必須である

被告発人安倍が必死で隠し、「ない」と言い続けてきた、5年間で900万円以上と言われる補填分が実際は「あった」ということについて、その原資をどこから得たのか、国民の関心は極めて高い。

政治資金規正法は、決して「形式犯」ではない。同法の立法趣旨は、政治資金の収支・流れを国民にガラス張りにすることによって、政治活動の公明、公正を確保し、健全な民主政治を実現しようとするものである。「どこから流れてきたのかわからない金」が政治資金として使われることは、「金で政治を買う」ことにつながり、民主主義を傷つけるものであり、あってはならないのである。

補填分の原資については、年間11億円と言われ、領収証不要とされる内閣官房機密費ではないかとの推測が、政治資金規正法を専門とする学者などから出されている。

  こうした疑問に応えるためにも、略式請求や不起訴で捜査を終結するのではなく、強制捜査を行い、被告発人らに対しては被疑者として取調べを行って真相を解明し、正式裁判請求の上、公開の法廷で真実を明らかにすべきである。

 

4 被告発人安倍の悪質性

―少なくとも2019(令和1)年分の収支報告書不記載には「故意」がある

前述のとおり、被告発人安倍は、国会において、「会費はホテル側が設定した。安倍事務所の職員が会場入り口で会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡した」、「後援会に収入支出は一切なく、政治資金規正法への記載は必要ない」、「ホテルからの明細書も見積書もない」などと再三答弁してきたが、こうした答弁が客観的に虚偽だったことが明白になった。

  被告発人安倍は、国会においても、また補填が明らかになった現在に至っても、「自分は知らなかった」、「秘書が自分に隠していた」として、秘書に責任を押し付け、自らに故意はなかったと供述して逃げ切ろうとしているようである。

  しかしながら、そもそも「安倍事務所」の実質的代表者である被告発人安倍が、自らの政治団体の金の流れや収支報告書の内容について、「知らない」ことはあり得ない。

2013(平成25)年4月に初めて開催した前夜祭については、同年5月10日、晋和会が補填分82万9394円を株式会社パノラマ・ホテルズ・ワン(ANAインターコンチネンタルホテルの運用会社)宛てに支払い、2014(平成26)年5月に提出された晋和会の収支報告書には、上記支出を「会合費」として記載している。あえて契約主体である後援会ではなく晋和会が支出し、しかもわかりにくい「会合費」として記載したこと自体、補填を隠す意図が明白である。ところが、翌2015(平成27)年5月に提出した収支報告書以降は、支出を記載すること自体をやめている。これは、小渕優子衆議院議員の関連政治団体の収支報告書不記載が発覚し、同議員が閣僚辞任に追い込まれたことの影響ではないかと報道されている。こうした「安倍事務所」ぐるみの隠蔽工作について、被告発人安倍が全く知らなかったことがあり得るとは思われない。

少なくとも、「桜を見る会」や「前夜祭」が国会で厳しく追及された2019(令和1)年11月以降、被告発人安倍が、真実はどうなのかと改めて真剣に把握しないはずがない。被告発人安倍は、その上で、意図的に虚偽答弁を重ねて追及から逃げ切ろうとしてきたのであり、極めて悪質である。

  確実に言えることは、2019(令和1)年分の収支報告書を作成提出した時期は、2020(令和2)年5月、つまり上記の国会での厳しい追及の後だったということである。新たに2019(令和1)年分の収支報告書を作成するにあたり、被告発人安倍は、収支の不記載が犯罪となることを明確に認識しており、2019(平成31)年4月の前夜祭での参加者から徴収した会費額やホテルの請求額を確認することは容易にできたにもかかわらず、あえて収支を記載しなかったのであって、このことは、被告発人安倍に明確な犯罪の「故意」があったことに他ならない。

  そこには、「国会であれだけ嘘を言い切った以上、今さら真実の収支を記載することなどできるわけがない」、「首相である自分が捜査を受けたり立件されることなどあり得ないだろう」といった傲慢さが伺え、悪質極まりない。

  少なくとも2020(令和2)年5月27日に提出した後援会及び晋和会の2019(令和1)年分の収支報告書不記載は、被告発人安倍に故意があったことは明白である。

 

5 告発事実第3(会計責任者の選任監督につき相当の注意を怠った)

  この罪は、第一次告発の対象とはしなかったものであるが、政治資金規正法第25条2項は、政治団体の会計責任者が収支報告書に収支を記載しなかった(同条1項)場合、「政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠ったときは、50万円以下の罰金に処する」と定めている。

  被告発人安倍は、晋和会の代表者である。

  万一、被告発人安倍に晋和会の収支報告書の不記載につき故意が認められなかった場合でも、政治資金団体である晋和会の会計責任者である被告発人西山の「選任及び監督について相当の注意を怠った」と言えるであろう。

  晋和会の事務所は衆議院第1議員会館の被告発人安倍の事務所1212号室にあり、報道によれば、ホテル側は上記事務所に集金に行き、その部屋にある金庫から被告発人西山が補填分を現金で出金し、ホテル側に手渡して領収証を受領したということである。被告発人安倍の本拠地である議員事務所に常駐する秘書が、政治資金を後援会の宴会の補填費用として出金し、通常であれば口座に記録を残すところを、あえて現金払いにして隠蔽工作を行っていたのである。百歩譲って、安倍が収支報告書不記載について「知らなかった」としても、このようなことをする人物を会計担当者として選任し、なおかつ監督を怠ったことにつき、被告発人安倍は責任を免れることはできない。

  ちなみに被告発人西山は、2020(令和2)年2月4日、首相官邸付近の路上で、くわえ煙草で放尿し、麹町警察署に連行され始末書処分を受けている。

 

6 告発事実第4(重大な過失による不記載)

  この罪も、第一次告発の対象とはしなかったが、政治資金規正法第27条2項は、「重大な過失により、…第25条1項(収支報告書不記載)の罪を犯した者も、これを処罰するものとする。」と定めている。

  被告発人安倍は、後援会についても晋和会についても、収支報告書不記載については共同正犯が成立するものであるが、万一、被告発人安倍に故意が認められないとしても、過失犯についても共同正犯は成立し、重大な過失とは、結果の予見が極めて容易な場合や、著しい注意義務違反のため結果を予見回避しなかった場合をいうところ、上述の経緯に照らし、被告発人安倍には故意と同視できるほどの重大な過失があったというべきである。

 

Ⅱ 公職選挙法違反(寄附)について

告発事実第5は、後援会が、2018(平成30)年4月および2019(平成31)年4月(寄附の罪の公訴時効は3年である)開催した前夜祭において、参加者1人5000円の会費分を上回る酒食を後援会員らに提供した行為について、違法な寄附行為に該当するとして処罰を求めるものである。

捜査により明らかになった補填額が、参加者らに対する寄附行為に該当することは明白である。

しかし、第一次告発で詳細に指摘したとおり、ホテルニューオータニ東京やANAインターコンチネンタルホテルにおけるパーティ費用が最低でも1人あたり1万1000円であることは、上記両ホテルの支配人や広報担当者の証言、国会議員らの調査、報道機関各社の取材などによって裏付けられている。証拠として提出した同じホテルでの同規模のパーティの見積書では、1人あたりの単価は1万5000円以上である。

今回、報道によれば、後援会が5年間で補填した額は900万円以上と言われており、前記の告発事実第1~4に関しては、各年の会費収入、補填額、費用総額につき、朝日新聞で報道されている数字を使った。しかし、これは明らかになっている最低限の金額である。例えば、2019(平成31)年4月12日の前夜祭では、費用総額634万円を参加人数768人(会費÷5000円)で割ると、1人あたりの単価は8255円となり、ホテル側が最低の数字としている1人1万1000円とは3000円近い開きがある。

上記の差額について、後援会がさらに補填したのか、あるいはホテル側が後援会側との何らかの交渉によって値引きをしたのかは定かではないが、第一次告発状に記載したとおり、仮にホテル側の値引きによるものであるとしても、これは後援会による参加者への寄附に該当するというべきである。上記未解明の差額は過去の2回分だけでも200万円以上に上るのであり、軽視できるものではない。こうした問題についても、さらに捜査し、解明を進めるべきである。

後援会による寄附の禁止は、公職の候補者等による寄附の脱法行為を取り締まる趣旨であり、金額の多寡を問わず「金や物で票を買う」ことに繋がる行為を処罰するものであるから、厳正な捜査が必要である。

 

最  後  に

 

 被告発人安倍は、7年8か月にわたって内閣総理大臣の地位に就き、森友学園問題、加計学園問題、そして公的行事である「桜を見る会」に自分の後援会員約800名を山口県から招待し続けてきたことに典型的に見られるとおり、政治権力を私物化してきた。

「桜を見る会」及びその「前夜祭」については、法律家から刑事告発がなされるや、検察庁法の解釈を違法に変更して官邸の守護神と言われた黒川弘務東京高検検事長の定年を延長し、検察庁法改正案まで提出して同人を検事総長に長く就けることにより自らの刑事処罰を免れようと画策した。しかし、その意図を鋭く見抜いた多数の市民の怒りと抗議により、検察庁法改正案は廃案になり、黒川氏も辞任した。

 市民は、検察当局に対し、たとえ被疑者が政治権力者であろうとも、遠慮や忖度をすることなく、公正な捜査により事案の真相を解明し、適正に訴追権限を行使することを、心から期待している。1000人近い法律家(その中には元最高裁判事や多くの著明な学者も含まれている)が第一次告発を行ったのも、法律家として市民の切なる願いを受け止めてのことである。市民は、本件捜査の進捗を固唾を飲んで見守っている。

 検察庁が、このような市民の期待と信頼に応え、このたびの告発(第二次告発)を真摯に受け止め、徹底した捜査と正式裁判請求をすることを求める。

 

 また、第一次告発がなければ、東京地検特捜部の捜査は開始されることもなかったであろう。検察庁は、そのことを認め、第一次告発を受理したことを正式に認めるとともに、第二次告発についても、直ちに受理していただきたい。

以上

ヘイト・スピーチ研究文献(159)文化ジェノサイド

90年代、国連人権委員会に、朝鮮学校に対する暴力事件を報告した時に、関東大震災朝鮮人虐殺にも言及した。この時、英訳が難しかったので、KoreanGenocide in Japanと訳した。それ以来、コリアン・ジェノサイドという言葉を使うことにしたが、『ジェノサイド論』(青木書店、2002年)以後、あまり言及してこなかった。

去年から、コリアン・ジェノサイドについて論究するようになり、最近、文化ジェノサイドについて原稿を書いたところだ。文化ジェノサイドについてもかつて言及したはずだと記憶していたが、文献を確認するのが遅れた。今日、ようやく確認できた。

前田朗「ジェノサイドとは何か」『統一評論』412巻(1999年)

前田朗「文化的ジェノサイドとは何か」『統一評論』413巻(2000年)

『ジェノサイド論』をまとめた時に、この2本も活用したが、そのまま収録するのではなく、書き直したためか、この2本の書誌情報を記録しておかなかった。そのまま失念しかけていた。

「文化的ジェノサイドとは何か」のタイトルは「文化的ジェノサイド」としているが、本文では「文化ジェノサイド」としている。「ジェノサイド」に「文化的」という形容はなじみにくいからだ。文化的なジェノサイドと誤解されかねない。

Saturday, December 19, 2020

ヘイト・クライム禁止法(191)イスラエル

イスラエルがCERDに提出した報告書(CERD/C/ISR/17-19. 14 March 2017

前回報告書以後、法律に変更はない。2012年、検事長は「イデオロギー的ナショナリズム的動機で行われた犯罪」と言う表題のガイドラインを出して、公衆の一部に対して、人種主義的内容又は敵意の動機による犯罪を行った場合は刑罰の上限を二倍にしていることを強調した。地方検察局はイデオロギー的ナショナリズム的犯罪を行う人物を監視するよう要請された。

2012年以来、検事長特別部は、人種主義や敵意の動機の犯罪事案の訴追を行ってきた。暴力的で煽動的な教育を行った宗教教育施設が一つ閉鎖された。同様の理由から財政支援を打ち切った教育施設が一つある。

検事長特別部はインターネット上の煽動事案の訴追も担当している。インターネット上の煽動に対する政策には変更があった。捜査件数及び訴追件数が増加し、正当な甲的言説の「レッドライン」を明確化する公衆意識啓発が行われた。訴追は1か月以内に行うようにし、その進展がメディアを通じて情報提供される。2014年、人種主義と暴力事案が増加し、200件以上を審理開始し、86件を訴追した。2015年、煽動事案と人種的動機による犯罪が80件訴追された。違法な集団の制限のため、2013年、国防大臣は「値段表price-tag」等の言葉を用いる団体、を1945年国防大臣規程84の「違法な集団」であると宣言した。

人種主義的動機の犯罪の刑罰加重は刑法第144条Fで定められている。2016年、13件が認知された。2015年は24件、2014年は41件の捜査が行われた。

イスラエル政府がCERDに提出した報告書・添付資料に、「表2.人種主義煽動犯罪、暴力煽動犯罪、人種主義に動機を持つ犯罪に関する訴追と判決(2014~15年)」が掲載されている。表2には45件の事案が掲載されている。そのうち、起訴されたが現在審理中でまだ判決の出ていない未決事案が26件、判決の出た既決事案が19件である。

未決事案は例えば次のように記載されている。

「事件番号C.C.555152-02-16 イスラエル対Yadid Bernstein事件、起訴日2016年2月24日、被告人は人種主義煽動と暴力煽動のために起訴された。本件は現在審理中である。判決は出ていない。」

以下では既決事案を紹介する。いずれも裁判所名は記載されていない。

Sultan Takatka事件、起訴日2015年11月2日、起訴状によると、被告人はマウント寺院を訪れたが、イスラエルに不法滞在しており、マウント寺院に訪れるユダヤ人集団にハラスメントをする集団の指導者のひとりであった。人種主義中傷を叫び、石を投げるハラスメントである。被告人自身、石を投げた。人種主義的動機をもった集会、暴行未遂、不法侵入で起訴された。判決は2015年11月3日、被告人は5か月の刑事施設収容、5か月の執行猶予を言い渡された。

Muhammad Kundus事件、起訴日2015年9月24日、起訴状によると、数か月間、スタン弾を所持しており、2015年9月1日、シナゴーグと軍事Yashivaの圧建造物の庭でスタン弾を投げた。被告人は無免許にもかかわらずバイクで逃走し、その際2台のバイクを損傷した。被告人は武器所持、武器携帯、公衆への敵意動機による威嚇、軽率で不注意な行為、無免許運転、不注意運転による器物損壊で起訴された。判決は2015年12月27日、被告人は27か月の刑事施設収容、3年間に13か月の執行猶予、釈放後6か月の自動車運転免許停止、及び1000NISの罰金(又は60日の代替収容)を言い渡された。

Moshe Haim Orbach事件、起訴日2015年7月30日、被告人は治安妨害、暴力。テロリズム煽動出版物所持、人種主義出版物所持で起訴された。判決は2016年3月17日、被告人は2件の刑事施設収容、3年間に6か月の執行猶予を言い渡された。

Nissim Hamada事件、起訴日2015年7月5日、被告人は暴力・テロリズム煽動及びテロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年10月11日、被告人は10.5か月の刑事施設収容、7か月の執行猶予を言い渡された。

Ubeida Tawil事件、起訴日2015年7月5日、被告人は暴力・テロリズム煽動、テロリスト集団支援、禁止された結社支援で起訴された。判決は2016年1月13日、被告人は12か月の刑事施設収容、6か月の執行猶予を言い渡された。

Nimer Assi事件、起訴日2015年2月4日、起訴状によると、被告人は仲間とともに、宗教的ユダヤ人全体に対する敵意の動機を持って、「アラーは偉大なり」「すべてのユダヤ人を殺せ」と叫びながら、ユダヤ人に見える通行人を攻撃した。被告人は犯罪の共謀、人種主義動機の加重暴行、人種主義動機の加重暴行未遂で起訴された。判決は2015年10月13日、被告人は15か月の刑事施設収容、12か月の執行猶予、5000NISの告発人への補償金支払いを言い渡された。

Nasser Hidmi事件、起訴日2014年12月25日、被告人は暴力・テロリズム煽動、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年6月28日、被告人は6.5か月の刑事施設収容、6か月の執行猶予を言い渡された。

Omar Ben Taufik Hassan Shalabi事件、起訴日2014年12月22日、被告人は」暴力・トロリズム煽動、人種主義煽動の違法出版、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年5月12日、被告人は9か月の刑事施設収容、5か月の執行猶予を言い渡された。

Nasser Hidmi事件、起訴日2014年12月22日、被告人は暴力煽動、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年6月1日、被告人は10か月の刑事施設収容を言い渡された。

Ibrahim Abadin事件、起訴日2014年12月22日、被告人は暴力・テロリズム煽動、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年6月9日、被告人は10か月の刑事施設収容、5か月の執行猶予を言い渡された。

Udai Biumi事件、起訴日2014年12月21日、被告人は暴力・テロリズム煽動、テロリスト集団支援で起訴された。判決は2015年6月22日、被告人は17か月の刑事施設収容(前刑の執行を含む)、5か月の執行猶予を言い渡された。

Shlomo and Nachman Twito事件、起訴日2014年12月15日、被告人らは放火、非現住建造物損壊で起訴された。被告人のうち1名は、暴力煽動、テロリスト集団支援でも起訴された。判決は2015年7月22日、控訴審判決は2016年1月31日、1人目の被告人は32か月の刑事施設収容、3年間に8か月の執行猶予等。2人眼は38か月の刑事施設収容、3年間に10か月の刑事施設収容等を言い渡された。

Yitzhak Gabai事件、起訴日2014年12月15日、被告人は暴力煽動、人種主義煽動、テロリスト集団支援、放火、ナイフ所持で起訴された。判決は2015年12月1日、被告人は放火について24か月の刑事施設収容、ナイフ所持に付き2か月の刑事施設収容、釈放後2年間に2か月の執行猶予、煽動犯罪につき10か月の刑事施設収容、3年間に4か月の執行猶予を言い渡された。

Raz Mizrachi, Oz Danieli and Matan Cohen事件、起訴日2014年11月18日、被告人らは、スポーツにおける暴力禁止法第15条の禁止された人種主義表現で起訴された。2人の判決は2015年11月18日、2人は6か月の刑事施設収容・執行猶予、5000NISの罰金を言い渡された。1人は120日間の社会奉仕命令、5000NISの再発防止保障料を言い渡された。

Sliman Shalbaya事件、起訴日2014年8月13日、被告人は仲間とともに、騒乱の際に、ユダヤ人通行者の車を停車させてタイヤに放火、鍵を開けさせなかった。被告人は放火、人種主義的動機をもった加重暴行、人種主義的動機を持った悪意の器物損壊(加重条件下)で起訴された。判決は2015年9月10日、被告人は6か月の刑事施設収容・社会奉仕命令、3年間に12か月の執行猶予、10000NISの被害者補償、1年間の保護観察を言い渡された。

匿名(少年)事件、起訴日2014年5月18日、被告人は約50台の車のタイヤに穴をあけ、ある家の前にナショナリズムの絵をスプレーで描いた。被告人は人種主義的動機の加重損壊、警察官に対する攻撃で起訴された。判決は2016年1月13日、被告人は3か月の社会奉仕命令、3年間に4か月の執行猶予、10000NISの被害者補償を命じられた。

Yehuda Landsberug and Yehuda Savir事件、及びBinyamin Richter事件、起訴日2014年2月5日、被告人らはマダメー及びフラターのパレスチナ人居住の村々で、夜間に放火し財産損壊を行った。人種主義的動機の共謀、放火による損壊、放火未遂、法秩序侵害で起訴された。2人の被告人の判決は2014年12月21日、被告人はそれぞれ30か月の刑事施設収容を言い渡された。もう1人の判決は2015年2月4日、36か月の刑事施設収容、3年間に12か月の執行猶予を言い渡された。

Basel Wakhed事件、起訴日2014年1月16日、被告人は暴力・トロリズム煽動と脅迫で起訴された。判決は2015年1月20日、被告人は4か月の社会奉仕命令、3年間に8か月の執行猶予、1000NISの罰金、5000NISの被害者補償を言い渡された。

CERDがイスラエルに出した勧告(CERD/C/ISR/CO/17-19. 27 January2020

最近、刑法改正がなされ、殺人罪について人種主義動機が刑罰加重事由とされたことを歓迎する。ヘイト・スピーチ、人種主義煽動、人種主義団体及びその参加を禁止する刑法規定がある。公開演説で公務員、政治家、宗教指導者が人種主義的ヘイト・スピーチを行い、非ユダヤ人マイノリティ、特にパレスチナ人に対する人種主義排外主義的行為があり、裁判では犯行者の人種的国民的出身により異なる基準が用いられている。公開演説における人種主義と排外主義に反対し、特に公務員、政治家、宗教指導者、メディア関係者による人種主義排外主義言説を強く非難すること。非ユダヤ人マイノリティを標的とする人種主義行為と闘う適切な措置を取ること。学校教科書における偏見や憎悪を助長する文章や図を除去すること。検察官や裁判官が、人種主義的ヘイト・クライム/スピーチを、犯行者の人種的国民的出身にかかわらず、同じ基準を用いて訴追するようにすること。

ヘイト・スピーチ法研究(158)

愼蒼宇「『朝鮮植民地戦争』の視点から見た武断政治と三・一独立運動」『朝鮮史研究会論文集』第58集(2020年)

日本による朝鮮植民地化過程及び植民地統治の全体を通じて、日本軍による戦争及び準戦争状態が続いた。

愼は、日本軍による植民地での軍事暴力と民族運動の関係を長期的・継続的に捉え、「植民地戦争」が「非対称的戦争」――「軍隊とジェノサイドが常に隣り合わせであった」――であり、それゆえ「戦時」と「平時」は未分離であり、義兵戦争のように民族解放の戦い、民衆の抵抗が続いたことを全体として視野に入れて、近代日朝関係史を考察する。

目次

はじめに

一 朝鮮植民地戦争と日本軍隊

1 朝鮮駐屯日本軍の軍事行動とその特徴

2 朝鮮軍司令官・参謀長・各司令官の植民地戦争経験

3 郷土部隊の朝鮮派遣経験

二 1910年代における朝鮮(駐箚)軍の再検討

1 武断政治期の朝鮮(駐箚)軍と植民地戦争の継続

2 シベリア干渉戦争に見る朝鮮(駐箚)軍と朝鮮社会

まとめと展望

本論文の特質は、東アジアにおける植民地戦争という大きな視野で全体像を描きつつ、日本軍の編成、司令官や参謀長の経歴・実体験、各部隊の移動と経験を綿密かつ丁寧に実証して、日本軍の行動様式や指揮官の意識を規定する要因を明確にしたうえで、個別の証言・記録を分析して、大きな視野の中に位置づけている点にある。

朝鮮派遣軍の師団編成、臨時朝鮮歩兵派遣隊編成師団、司令官経歴一覧、日本陸軍師団と歩兵連隊の「暴徒討伐」経験、黄海道・慶尚北道における3・1運動時の軍隊・憲兵・警察兵器使用事件など、基礎的なデータを詳細に積み上げて、3・1運動当時の歴史的条件、弾圧する側の主体的経験と意識、これに抵抗する民衆の行動を重ね合わせることで、「軍隊とジェノサイドが常に隣り合わせであった」歴史の実相を鮮やかに提示する手法は、比類のない手堅さと意欲的な挑戦の組み合わさった論考を生み出している。

「日本軍の朝鮮植民地戦争経験という視点からのアプローチ」により、「東学農民戦争から3・1運動、そして間島虐殺・関東大震災時の朝鮮人虐殺までの朝鮮(駐箚)軍司令官・参謀長・各司令官の経歴から、彼らの多くが長期にわたって朝鮮での植民地戦争、あるいは朝鮮派兵を経験し、台湾・シベリア・関東大震災朝鮮人虐殺にも連続性が見られた」という。

私は「植民地支配犯罪」――1990年代の国連国際法委員会において議論された概念――をもとに考えてきたが、日本では「植民地支配犯罪」論は受容されていない。この概念は2001年のダーバン宣言の時期から人道に対する罪に収斂していった。それを踏まえつつ、私はコリアン・ジェノサイドとコリアン文化ジェノサイドを論じようと考えている。

この点で愼の「植民地戦争」という視点は非常に重要である。私は歴史学者ではないため、植民地支配犯罪やジェノサイド概念を規範的レベルで略説・展開することはできても、それを日朝関係史のレベルで実証する能力がない。愼は理論仮説を提示するのみならず、着実に実証することで、説得力のある議論をしている。