巳年キリン『働く、働かない、働けば』(三一書房)
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働くって、よいことだと思うのだけど…
仕事してる時間は、 自分の人生じゃないような気がする…
お金もらえても、一度きりの人生を浪費されてる感じがして…
生きること、はたらくことについて考える、すべてのひとに贈る
「プレカリアート・コミック」!
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労働をめぐる思いを綴った漫画はこれまでにもあったが、理論や理想を追求する側面もあり、大上段に振りかぶっている、などという受け止め方をされてきた。その評価が当たっているとは思わないが、そういう印象で受け止められることがあるのは理解できる。
他方、本書は、間違ってもそういう印象を与えない。切なく、はかなく、優しく、そして/しかし、自分を見つめ、人に倣い、もう一度自分を見つめ、小さな小さなつぶやきを繰り返す。どんぐりさんがつぶやく。せろりさん、アーモンドさん、きゅーりさん、じゃがいもさん、ながねぎさん、たまねぎさんが行き交い、語りあう。
つぶやきの積み重ねが山となるわけではない。つぶやきはつぶやきのまま、ささやきはささやきのまま、悩みは悩みのまま、しかし/しかも、たじろぎながら歩み、歩みながら立ちつくし、立ちつくしながら、回れ右して逃げ出したい自分に向き合い、逃げ出した自分を責めるのではなく、逃げたい心のままに、もう一度たじろぎながら歩み出す。
労働とは何か。社会とは何か。人生とは何か――人は何とどのようにつながって生きてゆくのか。人が人として認められることとはどのようなことなのか。
貧困と格差と収奪と腐敗とハラスメントの現代の労働現場から、せめて四角い青空を見て一息ついて見よう。