Friday, September 20, 2013

立憲主義の基本を押さえた、自民党改憲案批判

青井美帆『憲法を守るのは誰か』(幻冬舎ルネッサンス書) 立憲主義とは何かの基本をきっちり押さえて、自民党改憲案を正面から批判する本だ。弁護士の伊藤真、憲法学者の清水雅彦など、自民党改憲案批判が次々と出てきた。96条改正先行案への徹底批判である。本書は新書だが、充実した内容だ。序章「憲法の目的は人権を保障することにある」、第一章「日本国憲法は立憲主義憲法である」から、第五章「暴走への懸念」、終章「いまこそ一人ひとりが、良識をフルに働かせる時」まで、よくできている。短期間で急いで書いたようだが、丁寧に書かれて、わかりやすい。230頁の新書にしては、読み応えがある。必要なことはちゃんと書かれているし、たとえ話やエピソードにも工夫がある。立憲主義を、国民主権、基本的人権、憲法尊重擁護義務との関連できちんと説明したうえで、憲法とは何か、どうあるべきか、改正論議はどうあるべきかを論じ、自民党改憲案など本来なら土俵にも乗れないような代物にすぎないことを明快に指摘している。838円+税は安いといってよい。一か所だけ残念なのは、171~2頁の「軍縮平和外交によって守られてきた安全」で、日本外交が「武器貿易条約」や小型武器規制に積極的に取り組んできたとして、日本の平和外交の貢献を語っているところだ。間違いという訳ではないが、かなりナイーブだ。なぜ今、通常兵器や小型武器の規制なのかは、明瞭だ。アメリカのアフガニスタン戦争、イラク戦争の教訓は、抵抗勢力が小型武器を持っているために、占領軍に被害が出る、ということだ。米軍兵士の被害を極小化するために、占領軍は圧倒的な軍事力で完全に抑え込み、民衆に抵抗させないことが求められる。小銃やカラシニコフを持っていては困る。だから、日本がアメリカのお先棒担ぎで前面に出る。もちろん、軍縮につながるという面では良いことだ。だが、大半の諸国の軍隊も武装勢力も、イージス艦、オスプレイ、ステルス戦闘機、航空母艦、巡洋艦、戦略爆撃機、大陸間弾道弾など持っていない。アメリカを中心とする大国が世界を自由に侵略し、思いのままに占領支配するために、小型武器規制が不可欠なのだ。三菱、IHI、東芝など軍需産業が大儲けするのもイージス艦やステルス戦闘機であって、小型武器ではない。なるほど、世界では小型武器による殺傷被害が大きいのは事実であり、規制が必要なのも事実だ。だが、ルワンダ・ジェノサイドの武器は斧やこん棒だった。斧やこん棒を規制しろとは誰も言わない。斧やこん棒が問題なのではなく、憎悪と迫害が問題だからだ。シリアで小型武器によって膨大な被害が出ても沈黙している政府が、化学兵器が使われたかもしれないと言うだけで大騒ぎするのはなぜか。171~2頁は、本書全体の流れから言っても違和感のある記述だ。削除したほうが、すっきり話が通る。