Wednesday, September 25, 2013

アリアナ博物館散歩

ジュネーヴ郊外、国連欧州本部、赤十字国際委員会(ICRC)、国際労働機関(ILO)などの国際機関が並ぶ地区にアリアナ博物館がある。所蔵しているのは陶芸とガラスである。広い敷地の中央にあるネオクラシックとネオバロックの折衷的な様式の建物は、1877~1887年に建築されたという。資産家グスタヴ・ロビヨーが慈善事業としてジュネーヴ市に寄贈したものだ。中央にそびえる丸天井形ドームは偉容だが、ローマン教会風の聖アンドレ・ド・キリナルSt.Andre du Quirinalの影響を受けている。所蔵品は、第一に、ニヨン焼きをはじめとする地元スイスの陶器である。チューリヒ、ベルンなど各地で17世紀から19世紀にかけて制作されたものだ。第二に、フランス、ドイツなど欧州諸国における陶器である。とても素敵なベネチア・グラスもある。第三に、中国や日本のものだ。分厚いカタログを販売しているが、フランス語版のみなので、購入しなかった。大阪の東洋陶磁美術館を思い出したが、いまはどうなっているのであろう。7~8年前に一度行ってみてきたが、最近のことは知らない。展示品の多くが中国や朝鮮半島の名品だ。「買ったのだ」と言い張っているようだが、普通に考えれば、略奪品だ。それはともかく、陶器とはこんなに幅広い利用がなされていたのかと思うくらい、実に多様な作品が並ぶ。大皿、小皿はもちろん食器だが、素敵なデザインのものに加えて、風景画、宗教画、肖像画などが描きこまれているので、最初から装飾品としてつくられている。コーヒー・カップ、ティー・カップ、ミルクポット、砂糖入れ、壺、花瓶、小物入れ、壁飾りはもとより、大小様々の時計もあれば、暖炉もある。イエス・キリストの受難を描いた大皿もある。これで夕食を食べたりすると、天罰か。ノアの方舟の神話を描いたと思われるものもある。ほほえましいのは、アスパラガスや茄子など野菜が大皿に載せられている様子を陶器で制作していたり、花瓶を布で包んでいる様を陶器で再現していることだ。多様なアイデアと技巧によって、陶器に世界を再現している。2013年夏、アリアナ美術館では、AKIO TAKAMORIの作品が展示されていた。一瞬、『あしたのジョー』の高森朝雄(梶原一騎、本名・高森朝樹、『巨人の星』『タイガーマスク』の原作)を思い出したが、全く関係ない。インターネットで調べると、AKIO TAKAMORIは、武蔵野美術大学出身のアーティストで、いまはシアトルを中心にアメリカで活躍しているようだ。今回展示された作品は、「普通の人の肖像」で、子どもたちを陶器で表現している。多くは、立っている子ども、次いで寝転がっている子どもだが、一つだけしゃがんでいる少女があり、それが宣伝チラシに使われている。なんだかほっとして、気が休まり、そうか、こんな子ども時代があったよな、と思わせてくれるが、それは日本人の受け止め方だろうか。それとも、アメリカでTAKAMORI作品はどのような評価をされているのだろうか。ジュネーヴではどうなのか。そこまではわからなかった。博物館の敷地には、正面前の平和通りに向けて、マハトマ・ガンディー像が設置されている。んぜ、ここにガンディーと思ったが、わからない。ガンディーの年譜を確認していないが、スイスに来たことはないはずだ。2007年にインド政府が寄贈したと書かれているので、インド政府の施策の一環としてガンディー像を広めているのだろうか。さらに、敷地には品川の鐘がある。こちらは日本でもよく知られているが、東京品川の品川寺(ほんせんじ)の鐘が幕末に行方不明になり、それがのちにジュネーヴで発見され、1930年、無事に品川に戻ったという話だ。住職が売りとばしたのだろうが、それは不問に付されたようだ。本物は品川に帰り、その記念の新しい鐘がジュネーヴにあるが、誰も搗いてくれないのではないか。と、勝手に思って、「ゆく夏、来る秋」と唱えながら、叩いてきた。