Friday, February 26, 2016

ドイツリスク――混迷するEUとドイツのこれから

三好範好『ドイツリスク――「夢見る政治」が引き起こす混乱』(光文社新書)
「危うい大国ドイツ」の実相を紹介し、「ドイツに学べ」式の日本人の発想に一定の抑止を掛けることを目指した本である。中心的話題は、第1に、脱原発、第2に、難民問題に揺れるEU(経済、ユーロ、人権の絡み合い)である。
脱原発について、著者は、2点強調する。1つは、3.11以後のドイツ・メディアはフクシマと日本について偏見を持った報道を繰り返したこと。メルトダウンと騒ぎ、放射能の危険を煽ったこと、である。2つは、メルケル政権の脱原発の選択は倫理に基づくもので、現実的でなく、正に「夢見る政治」にすぎないこと、である。
難民問題を契機とするユーロ問題(=ドイツ問題)について、著者は、EU統合にもともと無理があるのを欧州の歴史的経緯から実現させてきたこと、EUにおけるドイツの位置と役割が矛盾を抱えていたこと、ドイツの歴代首相たちもいまはEU政策に疑問を呈することもあることなど、さまざまな観点から検証している。

著者は09~13年、読売新聞ベルリン特派員、現在、編集委員。かつてカンボジアPKO報道にも携わっている。EUとドイツの戦後史の流れを踏まえて、かつ、個別具体的な識者の意見を踏まえて、議論しているので、視点が明快で分かりやすい。初めて知ることもあって、役に立つ本だ。もっとも、著者が「ドイツに学べ」式の議論を批判するのは、実は、「ナチスの過去を反省したドイツと、軍国主義を反省しない日本」という常識を否定して、「日本はこれ以上反省する必要はない」という議論につなげるためということが、ミエミエで、ちょっと情けない。