ポーランド政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/POL/20-21.
6August 2013)によると、最近改正された刑法256条2項は、公然とファシズムその他の全体主義国家体制をプロパガンダし、国民的、民族的、人種的、宗教的差異、又は宗教的信念を持たないことによる差異に動機を持つ憎悪を煽動する内容の、印刷物、記録、その他の物を、頒布する目的を持って、製造、記録、販売、所有、提示、輸出入又は運搬する行為に対する刑罰を科している。罰金、又は二年以下の自由制限、又は二年以下の刑事施設収容である。同条4項により、当該物品は裁判所の命令により没収される。本条項は、映画、レコード、ガジェットなどインターネットを通じて憎悪を煽動する場合にも適用される。ただし、美術、教育、学術目的の場合は禁止されていない。
2010年9月8日、刑法119条改正が発効した。119条は、差別的動機に基づいて人の集団又は特定個人に対して、物理的暴力や違法な脅迫を行った者に対する刑罰を定めている。改正前の旧119条2項は、暴力や脅迫の公然煽動を扱っていたが、これは新たに126条aになった。刑法118条aは、政治的、人種的、国民的、民族的、文化的、宗教的理由、又は世界観やジェンダーが異なるという理由による人の集団に対する迫害を犯罪としている。126条aは、ジェノサイドを行うことを公然煽動する犯罪である。126条bは、適切な統制をするべき義務のある者が義務を履行せずに、ジェノサイドや人道に対する罪を許した場合の刑事責任に言及している。
刑法53条2項により、裁判所は有罪判決に際して犯罪に人種主義的動機があったことを考慮に入れることになっている。刑法119条1項や257条では個別の犯罪成立要件に加えて量刑事情として明示されている。
2010年、検事局が扱ったヘイト・クライムは全国で163件であり、うち30件は訴追に至り、72件は却下、54件は予審審問に入らず、6件は保留である。却下された事案の多くは被疑者不詳(38件)、該当条文なし(23件)である。公然侮辱の事案の多くは、オンライン、壁の落書きである。検察官は、他の犯罪類型と異なり、法律上の成立要件及び被疑者の特定に苦労している。
2011年前半、109件の手続きが終了した。うち11件は訴追に至り、53件は却下、36件は予審審問に入らなかった。被疑者不詳(29件)、該当条文なし(12件)、証拠不十分(10件)である。
ヘイト・クライム事案は、オンライン上で行われた者が、42件(2010年)、45件(2011年前半)、壁の落書き等が17年(2010年)、16年(2011年前半)、スタジアムにおけるフットボール・ファンによるものが6件(2010年),5件(2011年前半)、著書や音楽活動によるものが3件(2010年)、4件(2011年前半)である。
グダンスク検事局は、2010年9月16日に、ファシズムのプロパガンダをする音楽CD及びナチスのシンボルのTシャツを販売するオンラインを開設した被疑者を起訴した。
ファシイズムを正当化する事案は、2010年、37件が予備審問にかけられ、うち6件が訴追に至り、19件が棄却であった。反ユダヤ主義の事案も多く、42件(2010年)、27件(2011年前半)、ロマ共同体に対するものが14件(2010年9、8件(2011年前半)である。
ワルシャワ検事局は、バス停留所に「われらの大陸の安全を守れ。白いヨーロッパだ。イスラムにノー」というリーフウエットを置いた事案で3人を起訴した。
フットボール試合の事案では、他人に対する侮辱を叫んだ実行者の特定が困難である。実行者が特定されても、叫んだ言葉が民族集団に対するものではなく、相手方フットボール・クラブのサポーターに対するものとされがちである。スローガンをバナーに書いた事案では特定性が高い。ルゼソウ検事局は、バナーに「鉤鼻の連中に死を」という言葉とユダヤ人の風刺画を描いた被疑者を起訴した。