Monday, August 26, 2013
セガンティーニ美術館散歩(2)
セガンティーニ美術館はサンモリッツの中心部ドルフと、もう一つのバートの中間の山の斜面に建てられた石積みの塔である。玄関前のベランダから見下ろすサンモリッツ湖も美しいが、逆に対岸から山腹を見ると、小さいながらも石塔がしっかと建っているのがわかる。セガンティーニの死から9年後の1908年、友人、後援者たちが準備したという。ムオタス・ムラーユ展望台とシャーフベルクの山小屋(セガンティーニの山小屋)のある東方向に向いているという。下にはアーチ形状の表門がつくられ、上部に切妻造の張り出しがある。石づくりのドーム建築は慰霊碑か記念碑を思わせるが、小さな素敵な美術館である。
はじめてセガンティーニ作品を見たのはヴィンタトゥールのオスカー・ラインハルト美術館だったように思うが、スイス各地でいろんな機会に見てきた。アルプス3部作ははじめてサンモリッツに来たときにも見たし、東郷青児美術館でも再見した。新宿で見たアルプス3部作はやはり、どことなくさえなかった。見る側に精神の緊張がないためだろう。アルプス3部作は、やはりサンモリッツの石塔のドームに置かれているのがふさわしい。
アルプス3部作が、当初は1900年のパリ万国博覧会のために建てられた巨大な構想に始まることはよく知られている。巨大すぎて構想が挫折し、企画が変転した結果、「生・自然・死」の3要素に収れんした作品群となった。しかも、セガンティーニの突然の死(1899年)のため<自然>は未完成のまま、1900年のパリ万国博覧会のイタリア館に展示され、好評を博したという。
アルプス3部作は「セガンティーニが19世紀末に制作した、当時最後の象徴的な内容の織り込まれた絵画(programmatic picture)のひとつである。それは、自然と美しく調和した人間の現実的存在を表現し」、「エンガディン地方とブレガリア地方の壮大なアルプスのパノラマは、比類なき造形力と象徴的な奥深い内容の秘められた汎神論的ヴィジョン(神は全てのものに宿っているという宗教観)を告げているのである」(ベアト・シュトゥッツァー)という。
セガンティーニ美術館の専門家が言うのだから間違いないのだろうが、気になるのは「汎神論」だ。
セガンティーニは言うまでもなくキリスト信仰だ。作品を見ても、最初期の<聖アントニオのコーラス>(1879年)、<十字架へのキス>(1881/82年)、代表作の一つである<湖を渡るアヴェ・マリア>(1886年)、晩年の<二人の母親>(1898-1900年)を見ても、キリスト信仰に貫かれている。何よりも、<自画像>(1893年)は明らかに自分とイエス・キリストを重ねている。このことはアルプレヒト・デューラーの自画像との比較でよく言及されていることだ。そのセガンティーニの汎神論とはいったいどういうことなのだろうか。アルプスの自然の中に暮し、自然と農民たちを見つめながら制作していく中で独特の自然信仰になったということだろうか。
また、解説によっては、ニーチェの影響を受けたと書かれているが、ニーチェの何を、どのように読んで、影響を受けたのだろうか。ちょうど同じ時期にニーチェは同じエンガディンのシルスに住んでいた(今ではニーチェ・ハウスとして公開されている)。そのあたりをもう少し知りたくて、美術館で資料を入手してきた。