的場昭弘『待ち望む力』(晶文社) http://www.shobunsha.co.jp/?p=2698
* 「希望だけがない国」日本で希望を語るためには、なにが必要なのか? 著者はこの問いを掲げて、ブロッホ、スピノザ、ヴェイユ、アーレント、マルクスという5人の思想家への旅を続ける。マルクス学の第一人者による、今の時代における希望のあり方を探る著作である。 第一章 希望をもつということ──ブロッホ『希望の原理 第二章 喜びをもつこと──スピノザ『エチカ』 第三章 重みに堪えること──ヴェイユ『重力と恩寵』 第四章 愛をもつこと──アーレント『アウグスティヌスの愛の概念』 第五章 未来を切り開くこと──マルクスの希望の冒険
このところお散歩と森林浴の日々だったので、毎日、一章ずつ読んできた。焦らず、あわてず、ゆっくりと。印象的な言葉があり、心に残る思索があり、ためになる本だ。「踏み越えるものとしての希望」を手探りした著者は、革命と希望をめぐる思念の闘いを追跡し、嫉妬と高慢と愛と想像力をひとつひとつ言葉にして確かめていく。「マルクスの革命と希望」において、著者は意外なことに、マルクスの革命思想ではなく、「マルクス自身を革命すること」について語る。そこには著者・的場自身を革命することが企図されているはずだ。ならば、私たちは私たち自身を革命するために読書するのでなければならない。
「予定調和的に未来を語ることがマルクス主義者だといわれていた時代がありましたが、未来は不確かなわけです。だから未来を待ち望む希望が必要なのです。望まないものは実現されないということ、これが本書の課題であるともいえます」。
かつて同僚だった著者の主要な著作をだいたいは読んできた。『トリーアの社会史』以来のマルクス・マルクス思想・マルクス思想背景研究に始まり、「マルクス学」を宣言して以後の翻訳・再訳、そして『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義』、あるいは意表を突いた「とっさのマルクス」。そうか、この道を歩んできたのか、という思いで勉強させてもらった。 本書で取り上げられた思想家5人はユダヤ人だ。誰もが気になるであろうことは、ベンヤミンが取り上げられていないことだ。ベンヤミンの「歴史の天使」には希望がないためだろうか。
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的場昭弘(まとば・あきひろ) 1952年宮崎県生まれ。神奈川大学経済学部教授。 著書に『超訳「資本論」第1巻~第3巻』(祥伝社)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義』(以上、光文社)、『新訳共産党宣言』(作品社)、『一週間 de 資本論』(NHK出版)など多数。