Thursday, January 12, 2017

大江健三郎を読み直す(71)「新しい人間」は生まれてきたか

小澤征爾・大江健三郎『同じ年に生まれて――音楽、文学が僕らをつくった』(中公文庫、2004年[中央公論新社、2001年])
2000年8~10月に行われた一連の対談をまとめた1冊。「若い頃のこと、そして今、僕らが考えること」、「芸術が人間を支える」、「新しい日本人を育てるため」。23歳で芥川賞を受賞した大江が、24歳でブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した小沢にインタヴューしたことがあり、それから40年以上の歳月を経ての対談である。1994年にノーベル賞を受賞した大江は世界的作家となったが、小沢もまさに世界的指揮者である。
大江は小説『新しい人よめざめよ』やエッセイで頻繁に新しい人について語っていたが、この対談でも同じことを繰り返している。21世紀の新しい人、新しい日本人、「個として責任を取る人、個として誇りを持っている人」であり、それは世界に開かれた思想、姿勢、構えを持つ市民である。中国生まれの日本人である小澤が西洋音楽の巨匠になったことの意味、四国の田舎の少年が東京で、日本語で小説を書き続けてノーベル賞作家となったことの意味、そこでは個性、民主主義が問われる。大江は「日本が鎖国しないように」と語る。

それでは21世紀の17年目に入ったいま、新しい人、新しい日本人は生まれたと言えるだろうか。