飛田雄一『心に刻み 石に刻む――在日コリアンと私』(三一書房)
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<横行するヘイト・スピーチの土壌には、戦後における植民地支配の未解決問題が横たわっている。
在日朝鮮人の法的地位の変遷とともに、今、改めて問う。>
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敬愛する理論家・活動家の一人、神戸学生青年センター館長の「生き字引」としての記録化作業の一つである。「在日朝鮮人問題」と呼ばれてきた<日本問題>の実相を、歴史を遡行し、自らの運動体験を呼び戻しながら、繰り返し問い続ける作業である。
飛田と私は5歳違いだ。飛田は神戸生まれで、関西で活動してきた。私は札幌生まれで、東京で活動してきた。同じ「在日朝鮮人問題」と言っても、あまり重ならないのが実情だ。このため飛田の運動体験や交友関係を、私は断片的な情報しか知ることがなかった。本書を読むことで、私が数々の著作で垣間見てきた世界のあちらこちら、そこここに飛田の姿があったことを知らされることになった。
第1章に掲載された講演記録「私の市民運動“ことはじめ”、そしてそれから」は何といってもおもしろい。市民運動の現場で闘い続けることは、こんなにも大変で、苦労が多く、憤怒と悲哀に満ちているのに、同時に楽しい、おもしろい。人間が人間としてぶつかり合い、行き交い、すれ違い、語り合い、飲み交わすからだ。その一端を本書に見ることができる。溢れる思い、ほとばしる感情を抑制しながら、思い起こし、語り、つづることで、飛田は<日本>を鮮やかに浮き彫りにする。
第2章の武庫川河川敷問題は初めて知った。第3章の在日朝鮮人の法的地位論は、情報としては古いが、それぞれの時期の議論を通じて改めて現在のありようを問うために収録されている。
あとがきによると、飛田は旅行記が好きで、本書に続いて『旅行作家な気分』という著書を考えているという。私は数年前まで某雑誌に「旅する平和学」を連載していたので、そちらでも飛田と出会えるかもしれない。
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目次
はじめに
巻頭インタビュー(聞き手:川瀬俊治)
第一章 総論
私の市民運動〝ことはじめ″、そしてそれから
第2章 歴史編
一九六一年・武庫川河川敷の強制代執行
解説『特殊労務者の労務管理』
アジア・太平洋戦争下、神戸港における朝鮮人・中国人・連合国軍捕虜の強制連行・強制労働
第3章 法的地位
サンフランシスコ平和条約と在日朝鮮人――一九五一・九・八~五二・四・二八
入管令改正と在日朝鮮人の在留権
在日朝鮮人と指紋――押なつ制度の導入をめぐって
GHQ占領下の在日朝鮮人の強制送還
難民条約発効より二〇年―改めて日本の難民政策を考える―
在日朝鮮人(一九四五~五五年)
あとがき