1.提言の概要(3)
提言は項目3として「制定すべき条例の検討」を掲げる。
「項目1及び2の対応が早急に求められるが、ヘイトスピーチ対策はそれで終わるものではない。人権全般を見据えた条例の制定に必要な作業に入るべきである。」
そして、「協議会及び部会において、幅広い条例が必要との認識では一致したところであり、具体的な内容については、ヘイトスピーチ対策を含めた多文化共生、人種差別撤廃などの人権全般にかかるものが求められる。」という。
2.「部会報告」の概要(3)
「条例の制定については、ヘイトスピーチ解消に特化した条例ではなく、広く人種差別撤廃条約の精神を具体化する「人種差別撤廃(解消)基本条例」や「多文化共生社会推進基本条例」、または対象をさらに広げた「人権条例」の制定が望ましい。」
部会報告は、「多文化共生社会推進指針」は行政の指針に過ぎないとし、川崎市が推進してきた多文化共生社会の実現のため「多文化共生社会推進基本条例」か「人種差別撤廃(解消)基本条例」を制定すべきであるという。ヘイト・スピーチに関するガイドラインや、第三者機関なども条例に盛り込むべきとしている。
3.コメント
人種差別撤廃条約第2条は、反差別法と政策を要請している。条約第4条はヘイト・スピーチの規制を要請している。条約第5条は多様な人権に関する補償を求めている。条約第6条は被害者救済を、第7条は差別と闘う教育や情報を掲げている。これらを実現するためには人種差別禁止法が必要である。
人種差別撤廃委員会は、日本政府に対して包括的な人種差別禁止法を制定するよう勧告してきた。しかし、日本政府は、日本には人種差別はないと唱え、人種差別禁止法の制定を拒否してきた。
野党は、人種差別撤廃施策推進法案を国会に上程したが、国会で成立したのは与党が提出したヘイト・スピーチ解消法である。ヘイト・スピーチに焦点を絞ったもので、人種差別をなくすための法律ではない。
NGOは、例えば外国人人権法連絡会のように包括的な人種差別禁止法を求めてきた。
地方自治体レベルでも、NGOは人種差別撤廃条例の制定を提言してきた。
川崎市報告書は、人種差別撤廃のための包括的な条例制定を提言している。その具体的内容は示されていないが、人種差別撤廃条約に即した内容が想定されていると推測できる。その意味で、川崎市報告書の提言は全面的に支持できる。