能川元一「排外主義の言説・運動における歴史修正主義の影響」『日本学』43輯(2016年)
ヘイト・スピーチを惹き起こしている排外主義運動の主たる要因の一つに歴史修正主義があることはかねてから知られ、指摘されてきた。本稿で、能川はさらに分析を進める。
民族差別や排外主義を(主観的に)正当化する要因として、歴史修正主義、その「論拠」として機能する民族差別、運動としての連続性、という3つの視点を提示する。歴史修正主義としては「韓国=反日」という議論の諸特徴を確認し、朴裕河、西岡力、小林よしのり、在特会の思考の共通性を探る。民族差別の例として、「慰安婦」問題に関する黒田勝弘、櫻井よしこの言説を取り上げる。そして、運動としての連続性として、主権回復を目指す会の西村修平、なでしこアクションの山本優美子などの排外主義と歴史修正主義の連続性を検証する。
最後に能川は次のように述べる。
「歴史修正主義についてはまったく楽観を許さない状況である。安倍首相が個人としては排外主義活動家らと大差ない『慰安婦』問題認識の持ち主であることはよく知られているが、アメリカなどでの『慰安婦』碑設置に反対する日本の右派の運動には日本政府も深くかかわっているのが現状である。与党自民党内にも『慰安所』制度の犯罪性や日本軍の責任を否認する議員が少なくない。マスメディアも歴史修正主義に関しては及び腰であり、一部にはそれをコンテンツとして積極的に利用するメディアもある。排外主義運動が『慰安婦』問題を利用して韓国への、ひいては在日コリアンへの反感を煽ることができる状況はまったく変わっていない。日本政府と日本の市民社会が共に歴史修正主義にはっきりと抗する姿勢をうちださない限り、排外主義運動の火はくすぶり続けることが懸念される。」